よく聞くリードインベスターって何者なのさ?

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こんにちわ。

83(b)Electionのマニアック話を連発して以来の、久方ぶりの登場です。

今回は、投資実務に携わっているいるとよく耳にする「リードインベスター」って何なのさ?という軽い話をはさんでみようと思います。

「リードインベスター」という言葉、そこかしこで日常的に使われている言葉ではありますが、その正確な意味って案外曖昧模糊としているような気がします。

なんとなくのイメージとしては、「ある投資案件で、その案件を主導してくれている投資家」とか「その投資案件で一番シェアを獲得する投資家」といったようなものがぱっと浮かぶかも知れませんが、実際とのころどうなんでしょうかというお話です。

この手のお話は、やはりWikipedia博士にお伺いするのが手っ取り早そうですね!ということで、お伺いしてみたところ・・・

なんと、ない。

Wikipedia博士もご存じないなんて、なかなかツワモノの予感です笑

そこで、次に我らがグーグル大先生に手広くお伺いしてみたところ、さっそくBusinessDictionary.comというところに行けとのご指示が・・・それによると、

「Partner or investor with the largest share of capital in a syndicated financing arrangement. A lead investor is usually the initiating venture capitalist who takes charge of the deal, and who may also act on behalf of the other investors.」

「ある一団で投資を行う際に、一番大きな投資持分を有するパートナー又は投資家のこと。通常は、その投資案件に責任を持つ、当該案件を開始したベンチャーキャピタリストで、他の投資家のために行動する可能性のある者のことを指す」

とされています。

うーん。。。分かったような分からないような。

もうちょっと何かないですかね?グーグル先生!

ということで出てきたのが、ロースクールに言ったことがある人はもしかしたら目にしたことがあるかもしれない「Black’s Law Dictionary」(注:Black Law Dictionaryではありません笑)。

それによると、

「Typically the venture capitalist initiating the deal, acting on behalf of the other investors. Oftentimes it is the partner or investor with the largest share of capital in a syndicated financing arrangement.」

「典型的には、他の投資家のために活動する、その案件を開始したベンチャーキャピタリストのこと。多くの場合、ある一団で投資を行う際に、一番大きな投資持分を有するパートナー又は投資家のこと」

とされており、BusinessDictionary.comと似ているけど微妙に異なる定義が紹介されています。

また、Ryan Robertsさんという弁護士がやっているStartup Lawyerというサイトでは、

「The Lead Investor is the investor that usually, but not always, makes the largest investment in a financing round and manages the documentation and closing of that round. The Lead Investor generally negotiates the valuation of the startup and all other material terms.」

「常にではないものの、通常、ある投資ラウンドで一番大きな投資を行う者で、書面とその投資ラウンドのクローズをマネージする者である。スタートアップのValuationやその他の重要な契約条件について交渉するのも、一般的にはリードインベスターである」

という、いかにも法律家らしい定義が紹介されています笑。

とりあえず、3番目の定義は置いておいて笑、1つ目の定義では、およそ一番大きな投資持分を獲得していればリードインベスターになるのに対し、2つ目の定義では、「他の投資家のために活動する」ことにやや重きが置かれているようです。

むむむ。正直よく分かりませんね。

ただ、両者ともに、投資額の多寡という客観的な判断基準だけでなく、「他の投資家のために活動する」という役割の面に注目していると言う点では共通しているようです。

ということで、リードインベスターってなに?という問いに対する答えを出すためには、どうやらリードインベスターの役割ってなに?という定性的な側面に注目する必要があるようです。 

で、その役割ってなにかというと、重要なものとしては、以下のようなものがあげられます。

(1)    スタートアップに対して対外的な信用を付与してくれる。

「スタートアップ」という言葉がよく聞かれるようになって久しい(と勝手に思っている)ですし、なんとなく良い響きが感じられなくもないですが、実際のところ、「スタートアップ」はなにかしらのアイデアをもとに「スタート」した会社に過ぎず、(特に初期のスタートアップについては)現時点では何も生み出していないことが多いと思いますし、今後どのように進んでいくかも不確定な状況が多いと思います。

このような状況を一言で表現すると、要するに、

「信用」がない

わけです。

そんな「信用」のない会社に、しっかりと興味を持って、コミットしてくれる「リードインベスター」なる投資家が存在すると、それによって信用が得られる結果となります。

どの程度の信用が得られるかは、その投資家の素性(?)次第であり、投資家によってむしろ信用がマイナスになるといったことも無きにしも非ずなのかもしれませんが(笑)、きちんと投資実務に励んでいらっしゃるVenture Capitalさんがリードインベスターになってくださるのであれば、大なり小なり信用は高まると思います。

そして、そのような「リードインベスター」がいることで、その資金調達ラウンドに参加してくれる投資家(いわゆる「Follower」)が増える可能性もあります。

これは、リードインベスターが紹介してくれることもありますし、「会社に対して興味はあったけど、二の足を踏んでいた」ような投資家さんが、リードインベスターがいるならということで参加してくれることもあります(そのような投資家さんに先に出会ってしまった場合、むしろ「リードがいるなら投資するよ」と言われることもあるかもしれません)。

(2)    そのラウンドで結構大きな金額を引き受けてくれる。

「しっかりと興味を持って、コミットしてくれる」ことが定量的な形で示されるものが、投資金額です。

リードインベスターは、そのスタートアップに対する投資ラウンドに関して、結構な額の金額を投資してくれます。それは、そのラウンドにおける調達額の過半以上になることもありますが、そうでないこともあります。

例えば40%とか30%とか、そんな場合ももちろんあります。

その投資ラウンドにおける調達額に対しいくら以上入れていなければ「リードインベスター」とは名乗れないとか、そんなルールはありません。

08222016

(3)    スタートアップのビジネスに関して有益なアドバイスをくれる。

「しっかりと興味を持って、コミットしてくれる」ことのひとつの証左ですね。

リードインベスターとなってくれる投資家は、そのスタートアップのビジネスに興味があり、豊富な経験や知見を持っていることがほとんどです。そのため、これまでそのスタートアップに主体的にかかわってきた創業者とは別の視野から、そのビジネスや業界について有益なアドバイスをくれることが期待できます。

また、シリーズA等の大きなラウンドのリードインベスターには、Board Memberの選任権が付与されることがほとんどですので、Board Memberとしても、有益なアドバイスを継続的に提供してくれることが期待できます。

(4)    投資契約について主体的(というかある意味独占的に)に交渉する。

Ryan Robertsさんの定義にも含まれている通り、会社側で投資実務に携わっている法律家的には非常に重要な視点なのですが笑、「リードインベスター」である以上、これはある意味当たり前の役割です。

なぜなら、リードインベスターは、その投資ラウンドでかなりの金額を入れるわけで、そうである以上、自分の利益を守るために、投資契約についてガチで交渉する必要があるのは当たり前だからです。

この点に関して、上記のリードインベスターの定義にもあるような、「リードインベスターは、他の投資家のためにも交渉をしてくれる人」といった発想が出てくるように思いますが、個人的には、正しい認識ではないと思います。

リードインベスターは、あくまで自分がかなりの額のリスクマネーを投資するからこそ、ガチで契約交渉をするのであって、それは基本的に自分自身の利益を確保するためです。

「このラウンドに参加する他の投資家のためにも交渉しているぜ」なんてスタンスの投資家は皆無と言っても過言ではないような気がします。

実際、「いやー、この条件だと、他の投資家さんが納得してくれないと思うんで」といったスタンスのリードインベスターからコメントは、一度も聞いたことがありません笑。

ただ、フォローするその他の投資家の視点からは、「あのリードインベスターがしっかり交渉してくれているはずだから、まあ大丈夫だろう」という期待のようなものは生じると思います。

実際、フォロワーに過ぎない投資家から投資契約一式のレビューを依頼された際、タームシートと異なる条件が契約書に記載されていたり、Cap Tableの前提がちょっと通常と異なっていることがたまにあるのですが、その際には、そのちょっと不思議な点については一応指摘しつつも、「リードとその代理人である●●法律事務所がもう交渉していると思いますよ。一応確認してみてくださいね。」といったコメントを行うことが結構良くあります。

「●●法律事務所」が投資実務に慣れていないところだったりすると話は違ってくるのですが(笑)、そうでなければ、フォロワーの立場からは、リードインベスターがいることで、基本的にはしっかり交渉されていると(事実上)期待できるという効果は生まれると思います。

そういった意味で、リードインベスターがいることで、フォロワーの投資家の参入障壁が下がるとは言えるのかもしれません(少額の投資家は、自分でガチンコでDue Diligenceをしたり投資契約をレビューするリソースを持っていないことも多いです)。

(5)    当該投資ラウンドに参加してくれる投資家を紹介してくれることもある。

ネットワークの広いリードインベスターですと、その投資ラウンドに参加してくれるその他の投資家を紹介してくれることもあります。

でも、これはリードインベスターによって異なりますし、フォローの投資家は自分で探してきてねというスタンスのリードインベスターももちろんいます。

なので、これがリードインベスターとして重要かといわれると、必ずしもそうではありません(なので一番下に書いてますw)。むしろ、きちんとコミットしてくれるリードインベスターが見つかっているようなビジネスであることをアピールしつつ、自力でフォローしてくれるその他の投資家を探す方が現実的ではないでしょうか。

ということで、色々とリードインベスターの役割を見てきましたが、これらの役割をおおざっぱにまとめてリードインベスターを定義づけしてみると、リードインベスターというのは、

「そのスタートアップに対してしっかりと興味を持って、コミットしてくれる投資家のこと」

であって、その結果として、

(1)    スタートアップに信用を付与してくれたり、
(2)    投資ラウンドで結構な金額を引き受けてくれたり、
(3)    スタートアップに対して有益なアドバイスをくれたり、
(4)    投資契約の交渉を主体的にやってくれたり、
(5)    場合によっては、その投資ラウンドに参加してくれるその他の投資家を紹介してくれたりすることもある

といった副次的効果(上記以外にもあると思います)を期待できる投資家である、というのが正しい認識ではないでしょうか。

BusinessDictionaryとBlack’s Law Dictionaryの定義に共通していた「他の投資家のために行動する」という要素は、どこにも出てきませんね。

この点は、上記のとおり、リードインベスターが「他の投資家のために行動する」ことはあまり期待できないように思うのですが、「その他の投資家がリードインベスター(とその代理人弁護士)がしっかりと交渉してくれているはずだとの期待を持ってくれる(ので、投資への参入障壁が下がる)」といった程度の副次的効果は狙えるのではないかと思います。

ということで、ちまたで見つかるリードインベスターの定義よりもさらに曖昧模糊とした定義になってしまったような気がしますが(笑)、リードインベスターってなんぞや?という点を、ちょっとだけ掘り下げてみました。

「そのスタートアップに対してしっかりと興味を持って、コミットしてくれる投資家のこと」

とか、他の定義よりもより一層定性的で曖昧模糊な定義になってしまった感がありますが笑、ご容赦くださいませ。

もうすぐ夏も終わりですね。みなさん、今年最後の夏をお楽しみください!!!

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