Startupの資本構成に関するアレコレ(9)~83(b) Electionの続き~

TakeuchiNobuki Blog Leave a Comment

こんにちわ。

前回話した83(b) Electionの続きです。 

83(b) Election、アメリカのスタートアップにとって超重要手続なんですが、実は結構な数の方々がミスっているというのも事実です。

ということで、今回はそんな重要手続をミスらずに行うためのヒントを提供しまくります。

重要なのは 

①提出期限
②提出するもの
③提出先
④提出方法

ですが、派生論点として、

⑤SSNがない日本人(やその他の外国人)はどーすっぺ?
⑥ぶっちゃけ提出を忘れたんだけど、どうすればいいっスか?

という点もありますので、ひとつずつ見ていきたいと思います。

提出期限】

株式を購入してから30日以内です。

30営業日ではありません。

きっかり30日。この点は、26 U.S. Code § 83の条文に書いてあります。

“Except as provided in the following sentence, the election referred to in paragraph (a) of this section shall be filed not later than 30 days after the date the property was transferred (or, if later, January 29, 1970) and may be filed prior to the date of transfer.

この30日という日数制限が、最大にして最深の落とし穴です。

結構な数の創業者の方がミスります。

我々も色々と強調しながら「絶対やってね!!!」と口酸っぱく申し上げるんですが、忙しい創業者の方は往々にして忘れがちです。

この「30日」は逃したら終わりです。事後的に追完はできません。

ですので、絶対に30日以内に提出するようにしてください!!!

こう言うと、次に疑問として出てくるのは「30日はいつから起算されるの?」という点です。

上記の条文には、「財産が移転されてから30日以内」と書かれています。

これを創業者の株式に当てはめますと、一般論としては

「創業者が株式購入契約を締結し、かつ、株式の代金を支払った時点」

ということになります。

ですので、会社設立日とは厳密には関係ありませんし、会社設立関連の内部書面の作成に手間取ってなんやかんやしていると、意外と起算点が後ろになったりすることもあります。

ただ、あまりに後ろになりすぎると、客観的に見て「?」がつくことも多い(=IRSからツッコミを受ける可能性が高まる)と思いますし、簡単な資金調達(例えばSAFEを使ったもの)を先走ってやってしまうと結構説明が苦しくなります。

ということで、83(b) Electionを逃さないようにするためには、

「会社設立後30日以内にやらなあかん!!!」

くらいの意識でいた方が良いと個人的には思います。

提出先】

Internal Revenue Service(IRS)の所管部署です。

基本的には、自分がTax Returnを提出している先に提出することになります。

Tax Returnの提出先は、Form 1040とかForm 1040NRのInstructionsに書いてありますが、現時点では以下のとおりとなっています。

06292016-1

 郵送先を間違えずに提出しましょう。

提出するもの】

83(b) Electionの申請用紙です。

申請用紙の書式はいろいろありますが、IRSのページにもサンプルが載っていますので、ご参考まで。

→IRSのサンプルはこちら(9頁目です) 

法律事務所等の専門家に依頼している場合や、Clerky等の(まともな)会社設立支援サービスを利用していれば、申請用紙を提供してくれるはずですので、基本はそのフォームに記載してサインすればOKです。

提出方法】

信用できる郵送方法(少なくともCertified Mail)を利用して、以下の書面をIRSに送付します。

(1)    83(b) Electionの申請用紙の原本及び写し1通
(2)    原本を受領した旨及びその日付を記載した写しの返却を求める旨のカバーレター(いわゆる送付状)
(3)    返信用封筒(返送先の記載と切手の貼付が必要)

カバーレターには、同封物のリストや自分の連絡先はもちろんのこと、「同封した83(b) Electionの申請用紙の写しに、「ファイリング済み」とスタンプを押して、私のところに返送してくださいね」と書くことになります。

返送されてきた83(b) Electionの申請用紙の写し(スタンプ済み)は、その年の個人のTax Returnを提出するときに利用することになりますので、返ってきたら大切に保管しておきましょう。

ちなみに、日本人のスタートアップの中には日本から申請する方もいると思います。

日本からの申請でも特段変わったところはないのですが、郵送方法が意外とクセモノです。通常の国際普通郵便だと行きも帰りも無事にたどり着くのか不安ですし、かといってCertified Mail(日本でいうところの書留郵便)は国際普通郵便では使えません。

信用できて安いのは郵便局から送れるEMSだと思いますが、聞くところによると、EMSでは前払いの返信用封筒を準備できないようです。ただ、何人かのクライアントから話を聞いたところによると、FedEXは前払いでの返信用封筒を準備してくれるようです。

そのため、一番安くて確実な方法は、

FedEXで返信用封筒を準備し、EMSで発送する」

という感じでしょうか(FedEXで発送しても良いのですが、いかんせん高いのです、はい)。

06292016-2

(NY州の州都・Albany) 

さて、引き続きまして派生論点2つをやっつけます。

SSNがない日本人(やその他の外国人)はどーすっぺ?】

③のフォームやその他の申請用紙を見てもらえれば分かりますが、どのフォームにももれなくSSN(Social Security Number)を記載する欄があります。

83(b) Electionはアメリカでの税金に関する手続ですので、当たり前と言えば当たり前ですが、日本人(や他の外国人の)スタートアップの中には、まだSSNを持ってないんだけど・・・という方も結構な確率でいらっしゃいます。

そんな時はどうするか。

カバーレターに

SSNを持っていない理由

を説明してファイリングを行えば大丈夫です。

イメージ的には、

「今はSSN持ってないけど、近い将来アメリカで適法に働けるVisaを取得して米国の税務に服する予定だから、83(b) Election出します。ヨロシク。」

とカバーレターに書いて送ってくださいということです。

この方法は、WSGRのTax PartnerであるJonathan Zhu弁護士が、IRSの弁護士と電話で話して確認した手法とのことで、144 Tax Notes 1571, September 2014に記載されています。

実際に、日本人のスタートアップの方もこの記載をして83(b) Electionを出して無事返送されてきていますので、大丈夫です。

このようにしてファイリングを行った場合、

自分が米国税務に服するようになり次第、SSN(又は他のTax ID)とともにElectionを補完を追完する必要

がありますが、

今年度のTax Returnに83(b) Electionの申請用紙の写し(スタンプ済み)を添付しなければならないという条件は、自分がTax Returnの提出が必要な立場にない場合には当てはまりません

ので、Tax Returnを出す必要はありません。

ただ、

83(b) Electionを適時にやったか疑念が生じた場合に備えて書面を保管しておく必要がある

ことにはご注意ください(あたり前ですね)。

ということで、今はSSNがない日本人のスタートアップの方でも、自分の株式にべスティングスケジュールがついていて、べスティングの期間内に米国税務に服することになる(米国のTax Payerになる)可能性が少しでもあるのであれば、上記の方法に従ってちゃんと83(b) Election を提出しましょう。

【⑥ぶっちゃけ提出を忘れたんだけど、どうすればいいっスか?】

どうにもなりません(笑)
だから忘れないようにしてください!

それでも忘れてしまった方、とりあえず弁護士に相談してみましょう。

個別具体的な事情によっては何か打つ手があるかもしれません。

僕も何度か相談を受けたことがあり、いくつか考えられることはあるのですが、さすがに公の場では言えません(笑)

*************

ということで、今回は83(b) Electionの申請方法に関するマニアック話でした。

ほとんどの方にはどうでも良いお話ですが(苦笑)、一部のスタートアップの方に役立つと信じてちょくちょく書き続けます。 

基本的にSFとPalo Altoでやっているスタートアップ向け勉強会で話した(あるいは話す)内容なんですが、Blogに書くと結構時間かかりますね・・・

でわでわ。

 

この記事が気に入ったら
いいね!をお願いします

Twitter で

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です