種類株主総会についての小話

Shuya Blog 2 Comments

インフルエンザが猛威を振るっておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

最近、たけうち隊員と僕が参加しているうちの事務所のチームで、一部M&Aやコーポレートガバナンス、金商法実務などに拘わるお仕事をされている業界人だけが読んでいるというかなりのコッテコテ業界誌(※本屋さんに置いていない笑)に、種類株式に関する連載を掲載いただいています。第4回はスタートアップ・ファイナンス、第6回はアメリカにおける種類株式について書く予定ですので、皆様ご期待ください!(←どうやって読むんだ売ってないのに、とお嘆きのレアな方がいらっしゃいましたら、個別にご連絡をください…笑)

そんな連載をしているくらいなので我々は常日頃種類株式にまつわるお仕事をしているわけですが、そんなことをやっていると、種類株主総会という不思議なモノに出会います。今日はこの種類株主総会に関するちょっとした小話をば。

1 種類株主総会ってなーに

会社法のルールでは、複数の種類の株式を発行している会社には観念的に複数の「総会」が登場することになります。たとえば、普通株式とA種優先株式を発行している株式会社SJBLという会社があるとします。この状況のSJBL社では、

「株主総会」

「普通株主を構成員とする種類株主総会」

「A種優先株主を構成員とする種類株主総会」

の3つが存在することになり、それぞれ決議できる事項と、決議しなければならない事項が変わってきます。

※ここでミソになるのが、普通株式以外の株式を発行すると、普通株式も「普通株式」というタイプの「種類株式」に位置づけられる、ということです(最近お話をしているスタートアップの方々のうち、ときどきこの点を誤解されている方がいらっしゃったので、今回の記事を書こうと思った次第です。)。

会社法では、たとえば、SJBL社が何も手当をしていないと、たとえば株式の種類を追加する旨や発行可能株式総数を増加する旨の定款変更をしたい場合、合併を承認する場合などには、それが

「ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるとき」には(損害を受けるおそれがある株主を構成員とする)種類株主総会の決議がないと、効力が生じませんよ

ということが定められています(322条1項)。なお、322条1項各号には、上記の「定款の変更」や「株式の併合又は分割」「株式を引き受ける者の募集」「合併」など、いくつかの(場合によって種類株主総会の決議が必要な)行為が列挙されておりまして、これを通称「322条1項各号に掲げる事由」なんて呼んでいたりします。

2 設例

具体例でお話をしてみましょう。

SBJL社では、普通株式とA種優先株式を既に発行しているわけですが、今般めでたくシリーズBラウンドに投資家がしっかり集まることになりました。無事投資契約と株主間契約も締結され、あとは決議をして、払込みとB種の発行を待つばかり。

という状況のとき、テクニカルには「定款にいままで規定されていなかったB種優先株式の内容が書き込まれる」ことになるため、上記「株式の種類を追加する旨」の定款変更をすることになります。したがって、SBJL社では、「株主総会」でB種の発行決議と定款変更決議を、「普通株主を構成員とする種類株主総会」で(少なくとも)定款変更決議を、「A種優先株主を構成員とする種類株主総会」において(少なくとも)定款変更決議を、それぞれ経なければならないことになるのです。

なお、上記の「損害を及ぼすおそれ」というのは非常~にこれまた抽象的なのですが、解釈上も実務上も、新種類の株式の発行は他の株主にとって通常「損害を及ぼすおそれ」があるものとして処理されています。特にスタートアップ・ファイナンスのときは一般的に「いつか普通株式に転換できる権利」が付されている種類株式を発行しますし、要するに最終的に普通株にみなさんなったときは自分も持分が希釈化される可能性があるので、おそれがございますでしょ、と考えられているようです。したがって、例えば新種類の株式の発行などの場合において、「損害を及ぼすおそれがない」から種類株主総会の決議は不要、という整理をするのは、きちんと説明できるバックグラウンドがあれば別ですが、現実的にはなかなかハードルが高いことになります(意地を張っても登記手続の都合があるため、あまり真剣に戦っても仕方ない場合が多いでしょう。)。

ところが、そもそもスタートアップ・ファイナンスの場面で株主の一部が(通常のアップラウンドの場合は特に)文句を言って新種類の株式発行を邪魔するなんてことはまずないわけです。時々、連絡してもお返事がこない株主はいますが笑、基本満場一致ですよね。しかも、それぞれの会議体の構成員(株主)は包含関係にありますから、どうも無駄なようにも思えるのですが、ちゃんとそれぞれ分けて決議を取得して頂戴ね、ということになっているのです。

この点、デラウェア州の会社法では(決議要件が過半数なら)過半数の株主からOK〜と返事が返ってくれば決議成立というオシャレ制度があるようで、書面による決議の場合は全株主がOK〜とお返事してくれないといけない我が国の会社法のカタさがこの辺の管理コストと「時間読めないぜ」という問題を産んでおるところはありますな。

3 種類株主総会の排除

となると、結構メンドクサイですね。そこで、会社法では、種類株式の内容それ自体として、「この株式に関しては、当社が322条1項各号に掲げる事由に該当する行為を行うときであっても、(本当は種類株主総会をやらなくちゃいけないんだけど)種類株主総会の決議をしなくていいってことにしますよ」ということを定めてもいいよ、そう定めた場合には種類総会をやらなくてもいいよ、という例外規定が設けられています(322条2項、3項)。これを受けて、実務上も、同様の規定を置いている場合も多いのですが…

なんと、更に例外の例外が。

これがまたヤヤコシイところでして、「株式の種類の追加」「株式の内容の変更」「発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加」に関する定款変更については、以上のように「決議を要しませんよ」ということを定めていても、原則に戻って種類総会の決議をしなければいけませんよ、ということが規定されているのです(322条3項ただし書き)。

以上をざっくりと纏めると、以下のようになります。

・株式の種類の追加などの定款変更や合併など、322条1項各号に掲げる事由に該当する行為を行うときには、基本、種類株主総会の決議が要る。

・しかし、種類株式の内容として「322条1項各号に掲げる事由に該当する行為を行う場合であっても、種類株主総会の決議は要らないよ」と定めておくことができる。

・もっとも、322条1項各号に掲げる事由のうち、株式の種類の追加などの定款変更については、そのように定めていても、やっぱり元に戻って種類株主総会の決議が要る。

実は、本当は更に、例外の例外の例外として、「322条1項1号イ~ハに規定された定款変更であっても単元株式数に関するものであればは種類株主総会を排除できる」こととされているのですが、、、それはさすがに省略しておきましょう笑

(単元株というのは、議決権を行使できる単位を定めるもので、我が国の非上場会社においてでも実質的に複数議決権を認めるのと同じように活用できるのではないか、と検討されておられる方もいますが、これまた相当マニアックな話で通常のディールでは関係ありませんので、別の機会に。)

今日のお話は、何度もラウンドを重ねている方からすると当然のことなのですが、はじめて複数種類の(普通株式以外の)種類株式を発行する場合には、種類株主総会の決議足りなくないこれ?という指摘を受けてしまうことがありますので要注意。足りてるかね?と思ったら遠慮なく顧問弁護士さんに相談してください。

いやー、しかし、仕事をしながらの執筆は本当に本当にシンドイです泣

来月も3月総会真っ盛り前なので、おそらく、今回次回とライト目な話題となりますがご容赦ください…4月に気合いを入れて記事を書きますので、しばしお待ちを!!

ではまた~

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Comments 2

  1. 普通株式1000
    a種類株式500
    自己株式の、消却により
    現に1つしか発行しない株式会社になり
    その後、発行可能株式総数の変更により普通株式に損害の、おそれがある場合
    普通株式による種類株主総会を開く必要はあるのでしょうか?

  2. 突然の質問で失礼いたします。ご教示いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

    以下の記載がある参考書があるのですが、設定できないのか、設定はできるが無効なのかどちらなのでしょうか。

    会社法322条1項所定の事項のうち、次の事項については、上記の種類株主総会の決議を要しないとする定款の定めを設定することはできない。
    株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加する定款の変更

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