Amazon Go

Takashi Nakatsuka Blog Leave a Comment

はじめまして、弁理士の中塚です。今月より、このBizLawInfoの仲間にいれてもらいました。私は特許が専門ということもあり、ここのブログでは、主にシリコンバレーを代表する企業の面白そうな特許ネタを取り扱っていこうと思っています。以後、よろしくお願いいたします。

さて、個人的に栄えある第1回はAmazon Goについてです。いきなりシリコンバレーでないような気もしますが、そこはおいておきまして。。。

Amazon Goって何?

先日ニュースになっていたのでご存知の方も多いと思います。Amazonは2017年にレジ不要の店舗「Amazon Go」を開始します。まずはAmazonの本拠地のシアトルからだそうです。何がすごいかというと、お店で買いたい商品をカゴに入れてお店の出口のゲートを出れば、自動的に支払いが済むというのです。つまり、レジに並んでの支払手続をすることなく買い物ができてしまうのです。Amazonはこれを“JUST WALK OUT TECHNOLOGY”と呼んでいます。Amazon Goの仕組みの概略は、AmazonのHPにある次の動画でわかるかと思います。

※音が出ます

 

Amazon Goの特許はあるの?

結論から言いますと、アメリカ、日本、ヨーロッパ及び中国で特許出願がされています。ただし、現時点では、特許として成立しているものはなさそうです。

公開番号 最新の状況(2016年12月26日現在)
アメリカ US2015019391 (以下、US①) 2016年11月16日付けFinal Rejection
US2015012396 (以下、US②) 2016年12月19日付けNon-Final Rejection
日本 特表2016-532932 審査結果待ち
ヨーロッパ EP3014525 審査結果待ち
中国 CN105531715 審査結果待ち
※国際出願: WO2014/209724  

最初の特許出願は、今から2年半前の2013年6月にアメリカでされました。主な経緯は次のとおりです。

 2013年6月26日:US①を出願

 2014年6月18日:US①に基づく優先権を主張して国際出願(→その後、この国際出願について、日本、ヨーロッパ及び中国に国内移行することで、それぞれの国で特許出願がされたということになっています。)

 2014年9月24日:US①に基づいてUS②を出願

 

US①とUS②の関係は?

ここで、2件の特許出願があるアメリカについて疑問が生じます。US①があるのに、US②って何だろうと。US②は、US①の一部継続出願(Continuation-in-part application)という位置づけになっています。平たく言いますと、US①に一部内容を追加して、US①とは別の範囲で権利を取ろうとしているのが、US②となります。

US①とUS②は関連していますが、別々に審査されます。現在、US①及び②のいずれも、米国特許庁の同じ審査官に審査されており、それぞれRejection(拒絶理由通知)が出されています。

最新のRejectionの内容を見ると、US①及び②のいずれも、先行文献の組み合わせにより自明であると指摘されています(35 U.S.C. 103)。また、いずれも、発明が“abstract idea”(抽象概念)であると指摘されています(35 U.S.C. 101)。この“abstract idea”(抽象概念)というのは、ソフトウエア特許に関して頻繁に指摘されるものでして、今アメリカの特許実務で最も話題にあがるトピックスです。これを書きだすと長くなるので、そのうち、機会を見つけてご紹介したいと思います。

Amazonが権利化を図るには、Rejectionに対応する必要があります。対応の仕方はいろいろありますが、一般的には、請求している権利の範囲を狭め、審査官の判断に反論します。

 

Amazon Goの特許出願で、請求している権利の範囲って何?

まず、権利の範囲は、特許出願書類のうち、特許請求の範囲(claim)の記載に基づいて定められます。つまり、特許請求の範囲(claim)が、請求している権利の範囲となります。

日本の特許出願(特表2016-532932)の特許請求の範囲の請求項1は以下の記載となっています(下線・改行追加)。

【請求項1】

1つまたは複数のプロセッサと、前記1つまたは複数のプロセッサに結合され、前記1つまたは複数のプロセッサによって実行されたときに、前記1つまたは複数のプロセッサに実行させるプログラム命令を格納するメモリから構成されるコンピューティングシステムであって、

前記プログラム命令は、前記1つまたは複数のプロセッサに

材料取扱施設内のユーザの位置を判断させ、前記位置は在庫場所近くにあり、

前記ユーザの手の少なくとも一部の第1画像を受信させ、前記ユーザの手の前記第1画像は前記在庫場所に前記ユーザの手が動く前に撮影され

前記ユーザの手の少なくとも一部の第2画像を受信させ前記第2画像は前記ユーザの手が前記在庫場所から除去された後に撮影され

前記第1画像と前記第2画像の比較の少なくとも一部に基づき、前記第2画像が前記ユーザの手に保持されている対象物の表示を含むことを判断させ、

前記第2画像が前記ユーザの手に保持されている前記対象物の表示を含むとした判断に応答して、前記在庫場所に関連付けられた在庫の物品を識別させ

前記在庫の物品と一致する前記対象物を判断させ

前記ユーザ物品リスト、物品を表示する物品識別子に追加させて、前記ユーザ物品リストに前記ユーザを関連付けられる

前記コンピューティングシステム。

非常にわかりにくいですね・・・。

ざっくりと、下記のUS①のFIG.2に照らしてみますと、(i)ユーザ204の位置を店舗内のカメラ208等を使って判断する、(ii)カメラ208等を使って、棚から商品207が取られる前後のユーザ204の手を撮影、それによりどの商品が取られたかを識別する、(iii)その取られた商品207の識別子をユーザ物品リスト224(オンラインショッピングでのショッピングカートのようなもの)に追加する、というのが発明のようです。

この特許出願で請求している権利の範囲は、厳密にはもっと具体的ですが、概略、上記のような感じです。できるだけ広い権利の範囲を、ということもあるのですが、さすがに、現在の請求している権利の範囲は広いように感じます。

実際、US①及び②では、現在Rejectionが通知されていて、先行文献の組み合わせにより自明であると指摘されています。Rejectionは過去にも出されており、その際の対応として、出願人は、請求している権利の範囲(claim)を狭めることをしたようです。現在のUS①のclaimを見ると、日本出願の請求項1よりも限定されています。例えば、上記(i)の後に、“ユーザ物品リスト224をデータストアから読み出す”というようなステップが追加されています。

 

Amazon Goの特許出願はカメラを使うだけなの?

さすがに、カメラだけではありません。例えば、商品が棚から取られたかどうかを識別するのには、圧力センサ、赤外線センサ、重量センサ、ライトカーテンなどを利用してもよいと記載されています。

In addition to camera’s, other input devices, such as pressure sensors, infrared sensors, a scale, a volume displacement sensor, a light curtain, etc. may be utilized with the implementations described herein. For example, a pressure sensor and/or a scale may be used to detect when an object is added and/or removed from inventory locations. Likewise, an infrared sensor may be used to distinguish between a user’s hand and inventory items. (US①の[0028])

 

Amazon Goの特許出願ってこれだけ?

Amazonは、他にも特許出願をしているかもしれないです。あいまいな言い方ですが、こう言わざるを得ないんです。なぜなら、現時点では外からは確認できない特許出願があり得るからです。

なぜ確認できないかというと、

 ・アメリカの特許出願は原則として出願日から18か月後に電子公開されるのですが、現時点でこの電子公開待ちの特許出願があるかもしれず、

 ・また、このような出願公開制度がある外国(日本を含みます。)で出願しないことを条件として、出願人はアメリカの特許出願が電子公開されないように請求することもできるからです。

さらに、US①からUS②を派生させたように、今後、Amazonは、上記の特許出願から別の特許出願を派生させることもできます。

 

Amazon Goは特許出願の内容を反映したものになるの?

必ずしもそういうわけではありません。特許出願後の開発動向等によって、実際の製品が特許出願したものと異なるものになることはよくあることです。

とはいえ、特許を取ろうとする範囲、つまり請求する権利の範囲(claim)は、通常、実際の製品をカバーするように記載します。したがって、Amazon Goで実際に行われるものは、おそらく、上記の特許出願のclaimに記載されることになるだろうと思います。

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第1回のAmazon Goについての特許ネタは以上です。いかがでしたでしょうか。次回こそシリコンバレー企業のIPネタを取り上げたいと思います。では、皆様どうぞよいお年をお迎えください!

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