Series A(とかBとかC)って実際なんぼのもんなのさ?

TakeuchiNobuki Blog Leave a Comment

こんにちわ。

ちょっくら久しぶりの登場です。 

シリコンバレー、最近すっかり暖かく(たまにめっちゃ暑く)なりましたね。

そんな(?)シリコンバレーにいると、あの会社がSeries Aで$5M調達したとかそっちのStartupがSeries Bを$60MのValuationで$10M調達したとか、ああだこうだとかどうだこうだとかそんな話が頻繁に流れてきます。中にはどこどこの会社が●●ビリオンで●●ミリオン調達だって、すっげー!!!とか、そういった話もありますね。

直近でも、Snapchatが$20Bで$200M調達するとかしないとか、Uberが$62.5Bで$3.5B調達だとか、もうわけわかんない数字の資金調達が行われていたりします。

でも、実際のところスタートアップが資金調達するってのは、どんな評価でどんだけ調達するのが一般的で、それって実はどんだけ難しいものなんでしょうか。ふわふわした数字だけだと、数字だけが一人歩きしてしまってちょっと分からない部分も多いと思います。

ということで、今回はそういったふわふわした感覚にきちんとした土台を提供すべく、

Series A(とかBとかC)って実際なんぼのもんなのさ」

といったことをテーマにいろいろと見ていきたいと思います。

さて、Seriesものの資金調達の規模感を表すものとしてよく使われる指標としては、Pre-Money Valuationと実際に資金調達を行った額が挙げられると思います。

これらの数字は、もちろん個別の案件ごとに当事者同士の交渉を経て決められるものなのであり、本来的に個別性の高いものではあるのですが、各シリーズごとに実際に資金調達を行ったスタートアップの平均値や中間値をとっていくと、各Seriesの相場観のようなものが見えてくるわけです。 

たとえば、PitchBookでは、2010年と2014年におけるSeries A、B、CそれぞれのPre-money Valuationの平均値と中間値を公表しており、以下の結果となっているようです。

06092016-1

 (※)グラフはPitchBookからの引用です。元記事はコチラ

それによると、2010年におけるSeries A、Series B、Series Cの平均のPre-Money Valuationは、それぞれ$12.3M、$30.6M、$69.9Mとなっており、2014年になるとそれが$20.3M、$73.7M、$188.5Mとなっていますので、Valuationが2010年から2014年にかけて上昇傾向にあることが見て取れます。

同様の傾向はやはり中間値においても明らかになっており、上のグラフによると、2010年におけるSeries A、Series B、Series CのValuationの中間値は、$6.5M、$19.3 M 、$38.6Mとなっている一方で、2014年の中間値は、それぞれ$13.1M、$36.9M 、$70.5Mとなっています。 

平均値と中間値との間に大きな差がありますが、これは平均値だとその性質上化け物級のPre-Money Valuationが付いた会社がいくつか混じってしまうと、それだけでいっきに数字が跳ね上がってしまうからです。分析の対象がそれなりの数に上る場合には、むしろ中間値をとったほうが「通常」の範囲がどの程度なのかを知るには適していると言えます。

さて、このPitchBookの統計には、残念ながら実際の資金調達額の平均額や中間値までは掲載されていないのですが、一般的に各シリーズで放出する株式の数が10%~20%程度であると想定すると、Series A、Series B、SeriesCの各資金調達額の目安は、それぞれ$1M-$3M、$3M-$8M、$7M-$15Mくらいになるでしょうか(Pre-Money Valuationの中間値をベースにしつつ、数字をテキトーに丸めています)。 

ただ、このPitchBookの統計は、あくまで全米レベルでの統計であり、シリコンバレーに特化した統計というわけではありません。また、統計の年度が2010年と2014年ということでやや開きすぎていますし、直近の傾向を知るには心もとない気もします。 

ということで次に登場するのが、私の勤務先であるWSGRが四半期ごとに公表しているEntrepreneur Reportというやつです。

これは、WSGRのクライアントが行った資金調達案件に関するデータを四半期ごとにまとめたもので、1年に一度は前年のデータをすべてまとめたデータを公表しているものです。

もちろん、WSGRのクライアントはシリコンバレーに限られるわけではありませんので、必ずしもシリコンバレーの動向を正確に映しているとは言い切れない部分もありますが、それでもかなり多くのクライアントがシリコンバレーに所在していることを考えると、(身内を褒めるのはちょっと気が引けますが)シリコンバレーにおける近時の資金調達の傾向を知る上で非常に有益なレポートになっていると思います。

まさに数多くのスタートアップのクライアントを抱えるWSGRだからこそできるレポートと言っても過言ではないでしょう。

さて、そのEntrepreneur Reportの2015年通年版を見てみると、2011年から2015年にかけてのSeries A、Series B、Series CのPre-Money Valuationの中間値と各Seriesにおいて実際に調達された額の中間値が掲載されています。

06092016-2

06092016-3 

(※)グラフはいずれもWSGRのEntreprenuer Reportからの引用です。元記事はコチラ

いろいろごちゃごちゃと書いてあるので今回のポストとの関係で必要な範囲でまとめますと、2011年から2015年にかけてのSeries A、Series B、Series CのPre-money Valuationの中間値と資金調達額の中間値は以下の表のとおりとなるわけです。

06092016-4

 PitchBookの統計でも、2010と2014年でスタートアップのPre-Money Valuationがあがっており、資金調達の額も上昇傾向にあることが見受けられましたが、この傾向はWSGRのレポートからも見て取れます。

また、PitchBookのPre-Money Valuationの統計では資金調達額の平均値や中間値は出されていませんでしたが、WSGRの統計ではこれが出されており、この統計からみるとPitchBookのPre-Money Valuationから推計した資金調達額のレンジがおおよそ合っていたことがわかります。

ただ、このように冷静に統計を見てみると、思ったほどSeries Aのバリュエーションって高くないなと思うかもしれません。 

私も、たまに友人・知人から「最近のSeries Aって、もう信じられないくらい高いバリュエーションがついちゃってるんですよね?」なんてこと言われたりしますが、もちろんそんなすんごい資金調達もあるものの、統計的にはPre-Money Valuationは$10M~$15M、調達額は$2~3M程度というのが相場(?)のようです。

ちなみに、Christoph Janz氏のブログ(最近、500Startups Japanの澤山さんが翻訳をポストしてくれました)でも、SAASモデルのスタートアップの資金調達モデルが掲載されていましたが、これのモデルでも、Series AからCまで大まかにいって上記のレンジの範囲内に入っているようですね(相当おおまかに言ってます)。

もちろん、このレンジはあくまで中間値や平均値を基にした数字ですので、中には信じられないくらいのバリュエーションがSeries Aの段階でついている事例もありますが、多くの「通常の」Series A案件は上記のレンジに収まっているのではないでしょうか。

ところで、冷静にSeries Aの段階で会社として何がどこまでできているのかを考えると、上記のバリュエーションもやっぱり高いですよね(ぶれまくっててすいません笑)。

小川隊員の分析によると、近時のSeries Aというのは、MVPをローンチして(Pre-funding)製品・サービスの牽引力を得た(Series Seed)後に、「製品・サービスを拡大する」ために行うものということであり、要するにこれからバンバカ展開して行きまっせ!という段階の入り口なワケです。この段階だと、売り上げなんかゼロというのが通常ですし利用者もそこまで増えているわけではないわけで、定性的に言えば「それなりに形になってきたから将来に期待しましょう」という感じでしょうか。そんな状況の会社に$10Mとか$15Mとか、そういった額のバリュエーションがついているわけで・・・まあ冷静に考えればやっぱ高いですよね、と。

だって、こんな高い金額の評価が、まだよちよち歩きもはなはだしい会社に付けられるわけですから。まったく畑違いの話で恐縮ですが、トップアスリートだってそう易々とそんな十数億単位の評価なんてもらえないわけです。世界一年俸が高いスポーツとして名高いMLBだってそうやすやすとは十数億円レベルの評価を受けることはできないわけですし、まして日本のプロ野球になったら、野球人として生涯稼ぐ年俸(その選手の野球選手としてのValuationの総額)が十数億円に上る人のほうが例外的なわけです。

もちろん、スタートアップとスポーツ選手を色々な面で同列に扱うことはできないし、すべきでないことは重々承知ですが、それでもスタートアップ自体を独立の人格として考えると(法人格があるので独立の人格がありますしね)、スポーツ選手(特に日本の)ってすごいリスクを背負って打ち込んでいるのに(少なくとも金銭的には)案外報われないんだなぁとかしみじみ思ってしまいました。。。

06092016-5

さて、話が脱線してしまいましたが、ここシリコンバレーにいると、そんな高い評価額を前提に数M前後のお金がSeries Aとしてばんばかスタートアップに流れ込んでいるかのような錯覚を覚えるのですが、実際のところ、スタートアップのうちのどれくらいの方々がこのような資金調達に成功しているのでしょうか?

要するに、Series A(とかBとかC)に行けるのって、どんだけすごいことなの?というお話です。

この手のお話の答えは、探せばチョイチョイでてきます。

例えばCB Insightでは2009と2010年にシードファイナンスをしたスタートアップを2015年まで追いかけて分析した結果、シードファイナンスに成功したスタートアップのうち次のステージ(いわゆるSeries A)に進めたのが40%、次の次(いわゆるSeries B)に進めたのが23%という分析結果を公表しています。

また、Mattermarkというビジネスデータの解析を行っている会社があるのですが、そのCEOであるDanielle Morrill氏のポストによると、2008年から2012年までの各年にシードファイナンスを行なったスタートアップがシードラウンドを「卒業」してシリーズAに行けた割合の平均は約33%とのことでした(Morrill氏は2013年から2015年にかけてシードファイナンスを行なった会社のシード「卒業」率も出しており、それによると「卒業」率は低下傾向にあるようですが、同氏も指摘しているように、シードファイナンス後の期間が限られていることから信頼に足るデータではないと思います)。

でも、やっぱりこの手の分析は自分でデータを遊びながら色々やるのが楽しいんだよな~と思い、

「よっしゃ!いっちょCrunchBaseから過去の資金調達のデータを引っ張ってきてシードファイナンスに成功したスタートアップがどれだけその後Series Aにたどり着けたのか、さらにSeries Aにたどり着けたスタートアップがSeries Bにたどり着けたのかを自分で分析してみっか!」

と思い立ち、CrunchBaseに

「データちょうだい!」

って問い合わせてみたものの、

「資金調達のデータも入ったデータセットのフルライセンスは1ヶ月$999でライセンス期間は最低3ヶ月からですよ(要するに最低$2997払ってね)」 

とのこと。

・・・高っ!!!

3ヶ月のライセンスとかマジでいらないんですが、One Timeでいいんですが、どんなに多く見積もっても1ヶ月ライセンスで十分なんですがゴニョゴニョゴニョ…とか色々ごねてみたものの、残念ながら撃沈しました。「$2500でどう?」と言われたんですが、さすがに個人でその額はキツイわー・・・ 

ということで、CrunchBaseの分析はいったんあきらめて代替ソースを探してみたところ、見つかったのがRedpoint Venturesという著名VCのパートナーであるTomasz Tunguz氏が書いているこのポスト:

Why Startups Face Increasing Competition In Raising Series As And Bs

Tunguz氏曰く、

「I analyzed 917 companies from seed through Series B over the past 14 years, using Crunchbase data.」

とのことであり、その分析手法は正確に述べられていないのですが、公開されているデータから察するに、CrunchBaseを使って2006年から2013年までの各年にシードファイナンスを行った会社をピックアップし、その会社を追跡してSeries A、Series Bに進んだかどうかを調べたといったところだと思います。

「917社」とか「過去14年」とか公表されているデータと整合していないように見える部分もあるのですが、まぁそれはそれとして、これですよこれ!僕がやりたかったのはまさにこれ。

で、同氏の分析によりますと、Seed RoundからSeries Aにいけたのは全体の27%であり、その中で次のSeries Bまでたどり着けたのは35%しかないとのこと。まとめると、シードマネーを調達できたStartupのうち、わずか10%強しかSeries Bにまで行きつけていないとのことでした。

CB Insightの分析やMorrill氏の分析よりもかなり厳しい数字がでていますね。もちろん、この数字も必ずしも正確なものではありません。Morrill氏の分析と同じように、2012年と2013年の数字はこのポストが行われたのが2014年2月であることを考えると直近過ぎて信頼性に欠ける部分もあると思いますし(この点はTunguz氏も指摘しています)、M&A等のExitが生じた可能性も考慮されていません。ただ、おおまかな傾向を知る上では大変役に立つ分析だと思います。

これらの分析を見ると、シードマネーの調達なんてまさにシード段階(種まき段階)で、そこから順調に成長していくのがいかに困難なことかよく分かりますね。

僕がWSGRで担当しているスタートアップのクライアントにも、これからシード(あるいはプレシード)ファイナンスに挑む方からSeries BやSeries Cにまで行き着いた方まで色々なステージの方がいらっしゃいますが、こう言った方々は、資金調達という面に絞って見ても、これまで見てきたような厳しい資金調達競争をくぐり抜けてきたり、これからまさにその競争に挑もうとされているわけです。

すごいですよね。純粋に尊敬します。頭が下がりますね。

ということで、スタートアップのおかれる資金調達環境の厳しさを改めて認識したところで、引き続きスタートアップの皆様方の後方支援に励んでいきたいと思います。

それにしても、CrunchBaseの分析を自分でやってみたいですね。。。いろいろ発見があるような気がしてなりません。

あ〜〜〜ウズウズするっ

しかし$2,997か。。。

・・・

、、、

。。。

クラウドファンディングでもやりましょうかね笑

この記事が気に入ったら
いいね!をお願いします

Twitter で

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です