取締役派遣権に関するあれこれ-その1

大変お久しぶりでございまして…お恥ずかしい!

私がミイラ化していた間も皆様の温かいご声援があり、ブログが(タケウチ隊員の尽力で)しぶとく続いていることを大変感謝しております…今後はもっと筆まめな自分を目指したい。そんなGWの狭間です。

先日三重県にハマグリを食べに行ったのですが、これが美味かった…という話はさておき。

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(写真は、以前も一度使いましたが、今年はスピースまさかのダフり池ポチャで涙に暮れたオーガスタ…)

VCさんが(特にリードを取る局面で)、しばしば投資先に対し、取締役を送り込むということをしています。今日から2回に分けて、この「取締役を送り込むの件」について、ちょっと考えてみたいと思います。第1回目は「送り込む権利の設計」、第2回目は「送り込まれた人はどう行動すべきなのか」ということについて考えてみます。またなんか思いついたら第3回目もあるかもしれません笑

さてさて、まずは、「送り込む権利の設計」の話の前に。

投資家はなぜ、取締役を送り込むのかについてちょっと確認です。

ビジネス的な意味で言えば、取締役は会社の経営情報の全てに(当然に)触ることができますから、当該取締役個人としてはその会社をよりよく知ることができます(知った情報を派遣元であるVCなどにそのまま伝えることができるか、という問題は非常に重要で難しい問題で、第2回で考えてみます。)。そして、会社側としても、単なる投資家と会社の関係を超えて、一緒に成長していくための力を具体的に貸して貰えるという意味で、派遣取締役は非常に頼りになる存在です。

また、法律上、取締役会設置会社(取締役派遣権を規定する場合には、会社には取締役会設置会社になってもらうことが当然の前提となっています。)では、「なんでもかんでも株主総会で決めればOK」というシンプルな構造ではなく、一定の事項については「取締役会で決めなければいけない」こととされています。

そのため、株主総会決議事項について例えば「1/3以上の議決権を保有しているから特別決議(2/3)はオイラの承諾なく通らないぜ」という状況であったとしても、「いや、これ取締役会決議事項ですから」となると、ズコーという自体が生じることがあり得ます。勿論、取締役派遣権に基づき取締役会の過半数の取締役を派遣することはまずないため、結局取締役会決議を止めることはできないのですが、事実上意見の合わない取締役会決議を止める方向に機能することは(ゼロよりは確実に)あります。

とまあ、ざっくり言うとこんな理由に基づいて取締役を派遣するわけですが、前置きが長くなりました、そろそろ本日のテーマ「送り込む権利の設計」について考えてみましょう。

投資家が取締役を送り込む場合、「種類株式の内容」として取締役選任権を規定することもあれば、種類株式の内容とまではせず、「株主間契約/投資契約の内容」として取締役を送り込む権利を規定することもあります。この2つ、似たようで結構な差があります。その一番の違いは、その約束に違反して取締役が選任されてしまったとき、権利を有する側がどのようなアクションを起こせるか、という形で現れることになります。

平たく言うと、「種類株式の内容」としている場合、当該約束違反の状態を取り消せる可能性が高いが、「契約の内容」だと当該契約で定めているプット・オプションや損害(があれば)賠償で対応することになり、当該状態自体を取り消すことまではできない、ということになります。

設例

取締役会設置会社である株式会社BLIで、Aさん、Bさん、Cさんという取締役がいるとします。株式会社BLIの定款上、取締役は3名とされています。Cさんは、甲種優先株主である投資家Xから送り込まれた取締役です。株式会社BLIの取締役任期は1年(真面目!)。今年も定時株主総会が近づいており、取締役候補者がリストアップされました。

ところがなんと!取締役候補者は、Aさん、Bさん、Zさんの3名でした…

Xさんは大慌て。ですが、慌てて弁護士に相談しているうちに、定時総会が開催され、Aさん、Bさん、Zさんが選任され、登記されてしまいました…

+++

(パターン1)取締役選任権が種類株式の内容となっている場合

X  「どうしよう、Zさんが取締役になってしまった…」

弁護士「安心して下さい、取り消せますよ。」

X  「何を?」

弁護士「定時株主総会の決議ですよ。会社法831条1項2号は、「株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき」には、株主等は、総会決議の日から3ヶ月以内に、当該決議の取消しを請求することができると定めています。Xさんの持っている甲種優先株式の内容を見て下さい。BLI社の取締役のうち1名は、甲種優先株主を構成員とする甲種種類株主総会で選任すると書いてあるでしょ?この内容は定款に書いてありますから、」

X  「そうか!今回の取締役選任決議は定款違反の決議なんだ!」

(パターン2)取締役選任権は契約上の権利であり種類株式の内容とはなっていない場合

X  「どうしよう、Zさんが取締役になってしまった…」

弁護士「安心して下さい、契約違反責任を追及しましょう」

X  「というと?」

弁護士「株主間契約をみてください、甲種優先株主は取締役1名を推薦することができることになっていますよね。この規定に違反したのだから、この株主間契約で規定されている契約違反時のサンクション(制裁)として、①Xさんの持っている甲種株を買い取ってもらいましょう、②損害が生じているのであれば損害賠償を請求しましょう」

X  「うーんなるほど。ただ、②実際問題損害は生じてないよね…。なので①プットで株を買い取って貰おうかな。実際、契約違反時のプットってこういうときに使うんだね。」

+++

とまあこんな感じで話が進んでいくことになるのです。総会大好き人間の筆者としては、更に進んでマニアックな論点として、定款上の取締役の人数の定め方が「3名以上」とかだった場合、Aさん、Bさん、Zさんの決議に加えてCさんも選任することができるのではないか(なので取消しの対象とならない可能性はないか)といった議論もありますが、それはちとマニアックな話なのでここでは措きます笑

そういうわけで、取締役を送り込むにしても、種類株式の内容とするか契約の内容とするかについて効果面からは結構な差があるのです。

ところが、実務上は、取締役選任権を種類株式の内容とまで定める例は(ベンチャー投資の実務としては)あまり多くありません。感覚的に言えば、かなり少ないと思います。

その理由は様々なことが言われていますが、種類株の定め方と定款の規定次第とは言え、事実上取締役を「送り込まなければいけない」ような負担は負いたくない、という投資家側の素朴な感覚が一つ重要な視点としてあるように思われます。これを受けてか、契約で規定する場合も、わざわざ「取締役を送り込むことができるというのは権利であって、義務ではないぞよ」と明記する例も多いです。

もちろん、「そもそも約束やぶらんし」と思われる方が多いと思いますし、それは勿論そのとおり。ほとんど聞かない話ではありますが、ブログには書けませんがホラーのような実例も現実にはあります…笑

スタートアップ側もVC側も、共に納得感のある権利の規定ができることが望ましいですね。

ちなみに余談ですが、種類株式の内容として取締役選任権を規定することができるようになったのは、旧商法時代の平成14年改正からです。そのときの立法担当者の解説によると、「一部の種類株式のみについて当該種類株主の総会で取締役を選任することができる旨を定め、他の種類株式について定款に定めを置かないことは許されません」と書いてあります(始関正光編著『Q&A 平成14年改正商法』189頁~193頁(2003年・商事法務))。

この見解、実は結構守られておりませんで、色々な会社さんの例を見ても「A種で1名選任」や「B種で1名選任」とだけ書いてあり、その他の種類株式についてどうするか書いていないことがままあります笑 立法担当者の見解はあくまで立法担当者の見解であり、最終的な法令の解釈権限は裁判所にあるところ、この類いの種類株式が問題になったことも知る限りないため、結論として何が「正しい」のかはよく分からんのですが、、、ゴニョゴニョ…

こんな感じで、種類株の設計というのは、意外と弁護士さんによってブレが大きいというのが特徴でもあります笑

とまあ最後は与太話でしたが、まずは第1回ということで「取締役を送り込む権利の設計」について考えてみました。次回は、【送り込まれた人はどう行動すべきか】という、奥深い議論にちょっとだけ触れてみたいと思います。

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