日本企業のアメリカ進出 ~よくあるQ&A(その2)~

TakeuchiNobuki Blog Leave a Comment

ご無沙汰しております。約1ヵ月ぶりの登場です。

この1ヵ月、仕事と並行してとある試験の準備をしなければならず、まったくブログを全く更新できずにおりました。

で、先週をもちましてめでたく解放されましたので、満を持しての投稿であります。

今回は、日本企業のアメリカ進出シリーズとしてよくあるQ&A(その2)をお届けしたいと思います。

特に反響があったわけでもないこの企画ですが(笑)、しつこく続けてまいります。
何かの腹の足しにでもしていただければ幸いです。

前回はQ8まで行きましたので今回はQ9から。

→前回の記事はコチラ←

Q9.    駐在員事務所、支店、子会社、どのパターンが多いの?

圧倒的に現地法人です。その理由としては、やはり、駐在員事務所と支店は、活動の主体が日本法人になってしまうのに対し、子会社を作った場合には、活動の主体が子会社になるため、リスクを日本法人から分断できるという点が挙げられると思います。

ここでいうリスクというのは、典型的には訴訟リスクですが(駐在員事務所や支店の場合には、訴えられた場合に訴訟の当事者になるのは日本法人です。それに対して、子会社の場合には、子会社が訴えられている限り、子会社が訴訟の当事者になります。)、その他にも、税金を払うのはあくまで子会社であり、万が一税金関係の処理で当局(IRS等)から税務調査を受ける場合でも、それを受けるのはあくまで子会社であり、親会社ではありません。これが駐在員事務所や支店だった場合には、調査を受けるのは日本の会社になりますので、それはもう大変なことになります。

これらのトンデモな事態を避けられることから、やはり、アメリカ進出にあたっては現地法人を作るというのが主流のようです。

Q10.    現地法人って、人を送らなくても作ることができるの?アメリカ人が代表者じゃなくちゃいけないとか、そういったルールはあるの?

我々が会社設立を経験しているのは、デラウェア州とカリフォルニア州だけなのですが、少なくとも両州では日本にいながらでも会社は作れますし、代表者にアメリカ在住の人を最低1人置いてくださいねといったような(ちょっと前まで実際に日本にあった類の)セコい規制は存在しません。

ただし、Social Security Number(SSN)等のTax IDを持っている人(別に日本人でも構いません)が1人もいないと、たまに登録手続きやライセンスの取得等の手続モノで苦労したりすることがあるのですが、そのあたりは現地の弁護士や他の専門家、さらには知人・友人を通じてどうにかなることも多いです。

Q11.    現地法人の種類でおすすめは?

事業会社が単独でアメリカに進出する場合には、ほとんどがC-Corporation(日本でいうところの株式会社)で、Limited Liability Company(LLC。日本でいうところの合同会社。ちゃんとPass Trough Taxationが認められています)を見ることはほとんどありません。

個人的にも、C-Corporationは日本の株式会社と良く似ていて理解しやすいですし、弁護士に書類の内部書類等の作成を頼んでもLLCに比べて通常業務の範囲内に収まる可能性が高いので、その点でも効率的だと思います。

税務上の観点で特にこだわりがないのであれば、C-Coporationでよいと思います(LLCの詳細は、【Q.12】にて)。

単独ではなく、誰かと組んでアメリカ進出を企てる場合(典型的には、アメリカ企業とのジョイントベンチャー)には、必ずしもC-Corporationが主流というわけではありません。むしろ、内部運営の方式や利益分配の方法といった点を含めて、いちからスクラッチで設計できるLLCの方が適していることも多いと思います。1月あたりに話題になったアパホテルさんのニューヨーク進出も、APA HOTEL FRANCHISE LLC(ニュージャージー州のLLCのようです)を作って行われていましたね。

Q12.    LLCってなんなのさ?

C-Corporationが日本の株式会社とほぼ同じであるのに対し、LLCは日本の合同会社に近い形態の法人です。

LLCも独立した法人であって、出資者(=親会社等)の責任が出資額に限定されており、米国法人のリスクを日本の親会社からいったん分離できる点にメリットがある点はC-Corporationと同じです。

LLCは、さらにC-Corporationに比べ、会社の運営形態に柔軟性がある点とパススルー課税のメリットを受けられる点に利点があるといえます。

パススルー課税というのは、LLCレベルで生じた損益をもとにLLCレベルで税金を収めることを回避して、LLCの損益を出資者レベルで合算(パススルー)した上で、出資者がLLCの損益をも自分の損益として計算し税務申告ができるという制度です。C-Corporationの場合には、現地法人に売上が立ったときに法人税課税がなされ、さらに剰余金の配当等で株主に利益を配当する際にも課税がなされることになりますが(いわゆる「二重課税」)、LLCではこれを出資者レベルでの課税1回で済ますことができるということです。

もっとも、会社運営形態の柔軟性についてはJoint Ventureを組むような場合でない限り通常そもそもあまり必要性が高くない(C-Corporationの機関設計で何ら問題はない)こと、LLCの機関設計について運営契約(Operating Agreement)を作成する手間が生じることという観点からは、大きなメリットとまではいえません。

また、パススルー課税についても、現地法人との関係が完全親子関係にある場合には、現地子会社が日本の親会社に対して配当を行うことはほとんど考えられず、二重課税のデメリット自体が生じることがそもそもあまり想定されません。さらに、LLCを日本の親会社の100%子会社とする場合には日本の親会社が米国税務当局による税務調査の対象となるため、親会社からするとその点でのデメリットすらあることになります。

さらにいえば、

 ①によっては、LLCには設立後の公告義務があり、これに一定の費用(州によりますが、$1,000~2,000程度のことが多いのではないかと)がかかること
②日本の親会社からLLCに対する出資は税務上損益通算のメリットを受けられるわけではないこと
③C-Corporationが日本の株式会社に類似しており理解しやすいがLLCは日本の合同会社との違いがあること 

なども考慮する必要があります。

と、いろいろつらつらと書いてみましたが、つらつらと書けるほど色々考えなければならないことがあるので、特に必要性がないのであれば現地法人としてはC-Corporationでいいんじゃないかなというのが、我々の率直な結論です。

03022016

Q13.    現地法人を設立する場所は? 

アメリカです。
・・・すいません、冗談です(笑)

アメリカは、各州ごとに別の会社法が存在していますので、いったいどこの州で会社を設立するのさ?という点が大きな問題点になります。

「完全子会社を作るだけで、将来投資の受け入れやIPOなど一切考えていない」という典型的な例では、ビジネスを中心的に行う州で会社を設立することをお勧めします。たとえば、シリコンバレーを本拠にするならカリフォルニア州、シアトルを本拠にするならワシントン州といった感じです。

これは、無駄に税金を支払わないで済むようにするためです。

詳細は、

アメリカでの会社設立(2)〜デラウェア?カリフォルニア?〜

アメリカでの会社設立(3)〜カリフォルニア法人〜 

もご参照ください。

Q14.    現地にオフィスをもってないと、現地法人って設立できないの?

ここでもやっぱり、デラウェア州とカリフォルニア州でのお話です。少なくとも両州においては、会社設立のために現地(アメリカ)の住所を持っている必要はありません。

カリフォルニア州では、会社設立の際にArticles of Incorporation(定款)に会社の住所を記載しておく必要がありますが、この住所はカリフォルニア州の住所である必要はなく、日本の住所でもまったく問題ありません。

デラウェア州に至っては、Certificate of Incorporation(定款)に会社の住所を記載する必要がありませんので、会社の住所地がそもそも問題になりません(その代わり、Incorporator(設立者)の住所が必要になりますがこれも日本の住所で問題ありません)。

ということで、アメリカにオフィスとか一切持っていなかったとしても、現地法人を設立することは可能です。

ただ、現地に住所は不要でも、現地に「エージェント」は必要になりますので、注意が必要です。エージェントが何たるかについては、【Q15】にて。

Q15.    エージェントって何者なのさ?

会社設立にあたって、現地に会社の住所がある必要はありません。

ただ、そうは言っても現地で設立された会社である以上、現地で会社とコンタクトが取れるところがないと色々不便なこともありますし、ある会社が何か不法なことをやらかして、「許せん、訴訟じゃー!」となった時にも、「はて、どこに訴状を送達すればいいんだろう?」なんて事態にも発展しかねません。

そこで、会社設立にあたって(少なくともデラウェア州とカリフォルニア州では)絶対に必要とされるのが「エージェント」という存在です。「エージェント」と日本語でいうとなぜか曖昧模糊で怪しげに聞こえてしまうのですが、要するに現地の「連絡係」みたいな存在です。

現地(デラウェア州ならデラウェア州、カリフォルニア州ならカリフォルニア州)にいて、役所からの連絡事項(税金納めてねといったようなこと)や訴訟を提起された際に訴状を受け取ってくれる、そんな連絡係的な存在が、「エージェント」と呼ばれる人たちです。

連絡係ですので、実際に会社の人が現地にいれば会社の人がエージェントになることも可能です。もっと言ってしまえば、別に会社の人でなくても親戚や友人・知人といった人でも、「連絡係」としての役割を了承してくれる人がいるのであればその方をエージェントに指定することも可能です。実際、カリフォルニア州を本拠とする現地法人を持っている会社さんの中には、会社の従業員をエージェントに指定しているところも多くあるト思います。しかし、カリフォルニア州ならまだしも、さすがにデラウェア州ともなると、そんな都合の良い人がデラウェア州内にいることは滅多にありません。

ということで、皆さんが利用されるのが有料のエージェントです。

日本では、特に外国法人が「外国会社」としての登記をしようとする場合、この手のエージェントを探すのに結構苦労するのですが、アメリカではごく当たり前に利用されています。デラウェア州であれば、エージェントのリストが州から公表されていますし、むしろそのようなエージェントを使うことが推奨されてすらいます。

実際、エージェントを使うと、税金の通知は漏れなくしてくれますし、万が一訴状が届いてしまった際には、訴状の要約までしてくれるところもあります(WSGRが提携しているCT Corporationは要約をしてくれるそうです)。ですので、仮に現地に従業員等がいてエージェントとしての役割を果たせる人がいる場合でも、あえて有料エージェントを採用している会社さんもたくさんあります。

Q16.    エージェントの費用って、いくらくらいなのさ?

エージェントによって違いますし、同じエージェントでも、提携している法律事務所を通すと安くなったりします。

値段のレンジは、本当にピンキリなので一概には言えないのですが、年間で安いところは$50程度、通常は$100から$200程度が相場ではないでしょうか。ちなみに、WSGRが提携しているCT Corporationさんですが、HP上はエージェントサービスの料金は最低$296/年となっていますが、WSGR経由で依頼すると半額に近い価格でフルサービスになります。

ちなみに、エージェントさんには、エージェントとして居座っていただくほかにも、各種のファイリングをしたり証明書を取得したりする時に手続きを代行してもらいます。その時はその時で、別に手続費用がかかるのでご注意ください。たとえば、デラウェア州のフランチャイズタックスの支払いは、オンラインで自分でできるのですが、これをエージェントにお願いすると、手続費用として所定のフィー($100とか業者によって違います)を取られるのが普通です。

Q17.    会社設立の証明書ってどんなものがあるの?

アメリカ(といっても、デラウェア州とカリフォルニア州のみが対象ですが)には、日本のような登記制度はありません。デラウェア州ではCeritificate of Incorporation、カリフォルニア州ではArticles of Incorporationをファイリングして、それで会社の設立は完了です。

日本のように、やれ取締役を選任しろだとか、払込をしろだとか、はたまた社印を作れとか、そんなメンドクサイ話は一切ありません。

ですので、会社設立の証明書も、極めてシンプルです。

会社設立時であれば、「Certificate of Incorporation(又はArticles of Incorporation)がファイルされましたよ」というぺらぺらの書面が来るだけですし、その後であれば、Certificate of Goodstandingという「この会社、有効に存続してまっせ」といった趣旨のことが書いてある、これまたペラペラの1枚紙が届くだけです。

まあ日本の全部事項証明書だって会社によってはペラペラといえばペラペラですので、大した違いはないのかもしれませんが。。。

サンプルは、Google先生にお伺いすれば、たくさん出てきますので、ご参照ください。

→サンプルはこちら←

Q18.    現地法人の設立を依頼する場合の弁護士費用の相場は?

事務所によって、タイムチャージの額や報酬体系が異なりますので、一概には言えないのですが、単純な子会社の設立であれば、付帯する各種の手続き(例えば、Employer Identification Number (EIN)の取得)も含めて、$2000から$5000程度でできるのではないかと思います。「幅ありすぎでしょ!」というツッコミが予想されますが・・・すいません。。。事務所によってだいぶ違ったりするので、難しいんですよね(汗)

時にベラボーな金額を提示してくるところもあるやに聞きますが、「そんなかからんよね」というのが正直な感想です。

##################

今日のところは、とりあえずここまでということで。

第3弾があるのかは分かりませんが、日ごろ質問を受けることをチクチクめもっていくと自然と第三弾ができあがる気がするので、おそらくそう遠くないうちに第三弾が登場するのではないかと思います。

最近なんだか鼻がぐしゅぐしゅするようになってきたと思ったら、花粉症ですかね、たぶん。

花粉症の人には苦痛のシーズンがやってきましたが、3月も頑張っていきましょう!!!

この記事が気に入ったら
いいね!をお願いします

Twitter で

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です