今回は、創業者が会社の株を買うときに注意しなければならないことに関する、はじめの一歩です。
「え?創業者って会社から株を買うの?」と思われる方もいるかもしれません(いないか?)。
はい、買います。これは、日本もアメリカも一緒です。
日本ですと、会社設立前に所定の金額を払い込んで、引受契約を締結して、めでたく創業株主になるわけですが、この「引受」というやつが、株式の購入にあたります。
会社法34条を見ると、「発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。」と書いてあり、さらに、50条で「発起人は、株式会社の成立の時に、出資の履行をした設立時発行株式の株主となる。」なんてまどろっこしい書き方がされているため、あまり「購入」しているイメージがないかもしれませんが、「会社にお金(財産の時もありますが)を払って株式をもらう」という一連の流れを外から見れば、「会社から株式を買っている」といってもあながち間違いではありません(株式の引受けに関する法的性質については、厳密には諸説ありますが、ここでは立ち入りません)。
デラウェア会社法では、この点は明確に「売買」として整理しているようでして、例えば、デラウェア会社法152条では、
「The consideration, as determined pursuant to § 153(a) and (b) of this title, for subscriptions to, or the purchase of, the capital stock to be issued by a corporation shall be paid in such form and in such manner as the board of directors shall determine.」
と書いてあり、(「subscription」=引受という言葉も使われていますが)明確に「Purchase」という言葉を使っています。
実際、創業者が株を会社から発行してもらう際に使われる契約書は、Stock Purchase Agreement(ほとんどの場合はRestricted Stock Purchase Agreement)ですし、株式で資金調達する際に投資家さんと締結する契約もSeries ● Preferred Stock Purcahse Agreementです。
ということで、創業者は、自分で作った会社から株式(典型的にはCommon Stock)を「買う」ことになるのですが、「買う」以上は、それに見合う対価(Consideration)を支払わなければなりません。
対価の典型例は、もちろんお金なわけで、このブログでも何回かお話している通り、Par Value(額面)以上の額であれば、いくらでも問題ありません。…といっても、通常のスタートアップはお金がないですし、あえて手金をたくさん投入してCommon Stockを購入すると、Common Stockの価値がそれだけ最初から上がってしまうことになります。
分かりやすくするために、創業者が100万株持つことを前提に考えた場合、
① 創業者が$100出資→1株あたり$0.0001
② 創業者が$10,000出資→1株あたり$0.01
③ 創業者が$1,000,000出資→1株あたり$1.00
というふうに、どんどん1株あたりの価値が上がっていきます(当たり前ですね)。
このこと自体にはさしたる問題はないのですが、このことは、後々にCommon Stockを発行しようとした場合に大きな問題となって現れてきます。
というのも、この価値が、のちのちCommon Stockを発行する際の基準となる価値になってしまう可能性が高く、それより低い価値でCommon Stockを発行すると、発行を受けた人が「Fair Market Valueよりも低い価格で株式を買い受けた」とかなんとか言われて、いきなり税金を払わにゃならんという由々しき事態になる可能性があるあるからです。
例えば、③のパターンで創業者がお金を$1M入れた後に、共同創業者となるべき人材と運命の出会いをするなんてことがあった場合を想定しましょう。
共同創業者になるべき人材ですので、よっしゃ50%もってもらおう!なんて考えると、単純に考えるとその共同創業者に対し100万株発行する必要があるわけです。
で、その共同創業者がお金持ちで、$1Mくらいポイっと出せるよってな方なら、同じく1株あたり$1.0で購入してもらうことで何の問題も生じないのすが、そんな稀有な方はなかなかいらっしゃいません(※僕にはゼッタイ無理です)。
で、現実的には$10,000しか出せないからといって(※僕にはこれすらムリ涙)、$10,000で100万株を引き受けてもらう(=1株$0.01で引き受けてもらう)と、単純に言ってしまえば、本来1ドルの価値のあった株式を1セントの超バーゲン価格で買ったことになってしまい、そのバーゲン価格分(1株あたり99セント、合計で総額で$990,000!!!)に対して、税金が課されてしまう可能性があることになります。その際の税率は、もちろん人によって異なるのですが、仮に税率が20%(注:テキトーな数字です)だとすると約$200,000…$10,000しか出せないといっていた人が払える額ではありません(苦笑)。
また、共同創業者だけでなく、初期の従業員に対しては、インセンティブとして、Stock Optionではなく、Common Stock(もちろんVesting Schedule付き)を付与することがよくあります(詳細はそのうち書きますが、日本で言うところの「適格」Stock Optionとして発行するために必要となるValuation Reportの取得費用を節約するためです)。
この場合のCommon Stockの発行価格も、基本は創業者に対する発行価格をベースにしますので、③のパターンなんかで創業株としてCommon Stockを発行していると、従業員になるために数千ドルから数万ドルの税金の負担を覚悟せにゃならんという、わけのわからん事態になります(83(b)Electionでなんとかならんの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この事例では、83(b)Electionは完全に無力です。詳細はそのうち…)。
ということで、お金があるからといって最初っからお金をCommon Stockで入れると後々(というか、わりとすぐに)「えらいこっちゃΣ(゚Д゚)」と後悔すること請け合いです。なので、創業株としてのCommon Stockの購入価格は、「後々に差支えのないと考えられる範囲」で、できれば低めに抑えておいた方が無難ということになります。
「じゃあ最初っからお金を入れたいときどうすればいいのさ?!」という疑問が、至極当然に出てくるのですが、その点に関しては、長くなったので次回ということで。
クリスマス前に投稿しようと思ったら、いつのまにか過ぎてしまいました。もう大晦日まぢかです。今年も残り数日、頑張っていきましょう~!