シェアリング・エコノミーと業規制 (1)

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いま、Uberやairbnbのようなサービスが世界中を席巻しています。個人の財産が活用されていない機会を第三者に提供し対価を得るこれらのビジネスモデル、もっと平たく言うと「いま使っていない何かがあるなら、必要な人に貸したらいいじゃない」という基本的な発想に基づくこれらのモデルは「シェアリング・エコノミー」と呼ばれ、シリコンバレーではしばしば「Uber for X」(Uber的ナニナニ)なんて呼ばれながら、日々新たなビジネスを生み出してます(最近は、トイレを貸してもいいよ、という人がトイレを求めている人にトイレを貸し出すairpnpなんてモノも…名称がウケますが、個人的にはネタと踏んでいます笑)。

例えばUberは、車を持っている個人がヒマな時間帯があるなら、どこかに行きたい人の足として提供したらいいじゃない。例えばairbnbは、家を持っている(借りている)けど使っていない時期があるなら、その期間を誰かに貸してあげたらいいじゃない

そういう発想に基づいてベイエリアで始まったこの「シェアリング・エコノミー」、基本的な発想はなるほど!と手を打つ賢いサービスですが、他方では世界中でUberを始めとする先駆者が色々な物議を醸していることでも知られています。

日本でも、ご存じのように今年2月、国土交通省が福岡で実験を行っていたUberに対し当該実験を中止するよう行政指導をしていた、なんて報道がありました。このニュースが流れた直後には「だから日本は!」的なトーンの反応が中心だったようですが、その後NewsPicksが国土交通省にインタビューを実施して様々な問題が根底にあったことを報道すると、「なるほど国土交通省の言い分にも相応のものがあるな」という反応に変わっていったようでした。

本ブログは同件の当事者ではなく、報道された情報を前提に判断せざるを得ないため、これらの立場のいずれが正しいのかを論評することはできません。ですが、シェアリングエコノミー型のビジネスを日本で展開しようとするとき、必ず問題になるのが、「業法」の問題です。なぜなら、シェアリングエコノミーとは、若干乱暴な言い方ですが¥

いままで業者さんにしか営業が許されていなかった市場に、個人が入っていく形態

でもあるからです。いきおい、「既存の既得権益 vs Innovation」みたいな語られ方をしますが、果たして本当にそのような構図で見るべきものなのでしょうか。何回かに分け、少しだけシェアリングエコノミーと業法の規制について考えてみたいと思います。

総務省によると、本年3月1日時点で、日本には1,935の法律があります。このうち比較的有名なのは、民法や刑法のような暮らしに直結するルールであったり、会社法や金融商品取引法のように経済活動に直結するルール、民事訴訟法や刑事訴訟法など裁判のルールなど、いずれにせよ市民(個人だけでなく会社なども含みます)が普段の生活を営む上で必要なルール(通常刑法や刑訴法は関係がないかもしれませんが笑)が中心です。

sharing-economy

しかし、他方で、法律には「行政に対し活動の権限を与え、範囲を限定する」役割もあります。その典型的なものの一つが、「業法」と呼ばれる法律です。

試しに総務省の法令データベースで、日本にはどんな業法があるか調べてみましょう。

ぱっと目に入るのは

建設業法

漁業法

保険業法

信託業法

古物営業法

鉄道事業法

貸金業法

警備業法

旅行業法

倉庫業法

クリーニング業法

旅館業法

などの各業法です。これらの名前から簡単に想像がつくとおり、日本では一定の業務を行う場合、当該業務が行政(具体的には、基本的にナニナニ省と思っておけばいいですね)の規制下に置かれ、場合によって当該業務を行うためには当該行政から免許や許可等を取得しなければならないこととされている場合があります。例えば、僕が明日から建設業者をやる、と言ったら危なくて仕方ないですよね。国民の生活に一定の影響をもたらす危険性ある業務を監督していくという発想です。

例えば旅館業法を例にとって考えてみましょう。

旅館業法は「旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与すること」

を目的とする法律です(同法1条。ちなみに業法は1条に同法の目的が書いてある場合が多く、解釈の際に参考にされたりします)。すなわち目的は大きく二つ。

① 旅館業の健全な発達

公衆衛生及び国民生活の向上

です。②を実現する方法として

③ 利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービス提供の促進

なんてことも謳われています。

そして、旅館業法は、旅館業を経営しようとする者は、原則として都道府県知事(場合によって市区長)の許可を受けなさい、と定めています。その基本的な趣旨は、あまりにボロくて脆い建物や不潔な施設で旅館業をしてはならんよ=宿泊者が危険でしょ、というところにあるのでしょう。これ自体は納得のいく話。また、その許可には「善良の風俗の保持上必要な条件」なんてものを付してもいいですよ、ということも書いてありますから、ケシカラン使い方はできないように規制することもできます(ちなみに正直私は同法の専門家ではないので、この条件がそれくらい使われているか、もし使われているとしてどんな条件が一般的なのかは知りません…)。

そして、この許可を得ずに旅館業を経営した人には、刑事罰(6ヶ月以下の懲役又は3万円以下の罰金)も一応準備されています。

このように刑事罰まで準備されている以上、もしあなたが旅館業を営もうと考えた場合、勿論許可を得るように進めるでしょう。私もそうします。では、何が「旅館業」なのでしょうか。ヒントになるのは、同法2条のこの規定です。

旅館業法は2条1項で

旅館業=ホテル or 旅館 or 簡易宿所 or 下宿 

と定義しているのですから、要するにあなたがやろうとしている宿泊サービスがホテルでも旅館でも簡易宿所でも下宿でもなければ、「旅館業」に当たらない=同法上許可を得ることなく実施して構わない、ということになりそうです(例えば、どれも「宿泊料を受けて」との要件が入っていますから、宿泊料を受けなければ旅館業には当たりません。無料で人を泊めてあげるサービスを自宅で実施しても、同法上は好きにせい、ということです。誰もやらんと思いますが。)。

論理的に、ホテルと旅館は【〇〇で「簡易宿所 or 下宿」以外のもの】と定義されているので、順番としてはまず簡易宿所とは、下宿とは何か、を考えていくべきということになりそうです。掘り下げていくとキリがない上、手元に判例データベースや参考となる書物もないので危ないコメントは残しませんが笑、おそらく既存のサービスはこの全てに当てはまらないので旅館業には当たらないよ、という整理の上に成り立っているのでしょう(パッと思い付くのが最大貸出期間を1月未満に抑え、まずは下宿営業に当たらないようにする、ということだと思うのですが、日本のairbnbは1月以上の貸し出しにも対応しているように見えるので、そもそも「営業」ではない、など別途の整理があるのかもしれません。)。

ほかにも、例えば、空いている建物や構造物をお持ちの方が、そこを荷物置き場として提供するサービスのプラットフォームをを考えたとします。分譲型のマンションで、同じフロアの一室を倉庫として借りられたら便利なことも絶対にあるでしょう。でも、そのサービスの検討時には、それが「倉庫業法」上の倉庫業に抵触しないかを検討する必要があります。倉庫業を営むためには国土交通大臣の登録を受けなければならん、とされているからです。

このように、シェアリング・エコノミーのビジネスは業規制との関係を常に意識する必要があります。もちろん、「airpnp」のように「トイレ貸業法」なんて業規制が存在しないと思われるため検討が不要なものもあり得ますが、大きくスケールする可能性のある市場には(日本では)業規制があることが多いのです。さきほど述べたように「既存の既得権益 vs 新しい価値による打破」という構図に置き換えられてしまいがちな分野でもありますが、本当に必ずその二軸で検討すべきことなのでしょうか。このような構図に置き換えて議論すると、重要な視点を見落としがちなのではないか、と個人的に思うところもあります。日本って、アメリカほど自己責任が徹底された社会じゃないよね、という感覚がヒントになるかと。

長くなってきましたので今回はこれくらいにしますが、次回以降、ベイエリアでのUberの経緯なども含め、更にシェアリングエコノミーと業法規制について検討してみたいと思います。

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