B&B Hardware, Inc. v. Hargis Indus.

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先週は2発最高裁判決が出ています。そのうちの1つは、商標法の中身に関しては約10年ぶりの判断、だそうです。高裁で判断が分かれていた論点について一つの結論が出ました。

今回の判決内容(ざっくり):

行政機関の判断に争点効が生じることはあり得る。TTAB(商標審判部)の判断は、その後の裁判所の判断を拘束することがある。

米国商標法はそのような争点効を禁じていない。TTABの誤認混同の惹起可能性の判断についても争点効は生じ得る。TTABの判断の争点効がその後の裁判所の判断を拘束することは多くはないかもしれないが、一般的な要件を充足する限り争点効は否定されず、「TTABは行政機関だから裁判所に対する争点効は一切生じない」という考え方は、採用しない。

破棄差戻。

(Alito最高裁判事)(7対2)

(注1) TTABというのは、USPTO(特許商標庁)の中の、商標の登録や取消を取り扱う、裁判的な機能を果たしている部署をいいます。例えば、TTABでは、誰かの商標登録手続中に異議を申し立てたり、誰かの既登録商標の取り消しを求める、二当事者対立構造の裁判のような手続等ができます。USPTOは行政機関であり、司法権を行使する裁判所とは、その点で異なります。

(注2) 争点効というのは、前の裁判その他の手続で争われ、結論が出された重要な論点については、後の裁判その他の手続では改めて争うことはできない、というルールのことをいいます。

一般には、前訴で有効な最終の本案判断がなされたこと、前訴で同じ争点が争われ、判断されたこと、争点が前訴の判断に必要不可欠なものであったこと、が要件となっています。

highway

事案の経緯(ざっくり):

B&Bの登録商標はSEALTIGHT、Hargis側のマークはSEALTITE。両者とも特殊なファスナーに使用されていたようです。

B&Bは、HargisのSEALTITEの商標出願に対して異議を申立て、2つのマークが誤認混同を生じると主張、TTABはこれを容れ、SEALTITEの登録は阻止。Hargisは不服申し立てをしませんでした。

その間、B&BはHargisに対して、商標侵害訴訟を提起。B&Bは「TTABが誤認混同の可能性を認めたから裁判でもそこはもう争えない」と主張、しかし地裁はこの争点効の主張を、TTABは司法裁判所じゃなくて行政機関だという理由で全面否定。

高裁(第8巡回区)は、行政機関の判断に拘束力が生じることは一般論として認めながらも、TTABと裁判所の判断基準や手続が異なるなどの理由で、結局地裁の結論を維持。

→この高裁判断を最高裁がひっくり返したということになります。

理由は、一言でいうと、行政機関での手続であっても、当事者がきちんと争う機会を与えられ、行政機関によって最終判断がなされた場合には、それを後の裁判で蒸し返させてはいけないという考え方は強い根拠があるのであって、法律によって特に禁止されていない限り、争点効は一般的に認められる(推定される)ということです。同趣旨の1991年(Astoria Fed. Sav. & Loan Assn. v. Solimino)の判例を引いています。そして、2つのマークの誤認混同の判断基準もTTABと裁判所で同じだと。

Thomas判事、Scalia判事の反対意見があります。多くの反対意見と同様、興味深い充実ぶりです。

クリティカルだと思われたのは、1991年のAstoria判決に関連し、「コモンローは長らく行政機関の判断にも後訴に対する拘束力を認めてきた」という前提に、19世紀からの歴史や三権分立等を根拠に噛みついているところです。これについては多数意見もがっぷり四つに回答しているか疑問もありますが、結論としては、争点効完全否定という”極端”を否定したことと、あとは裁判所の健全な運用によって対応しようという精神によって、反対意見のこの点に関する主張を実務的には乗り越えられているといえるかもしれません。

このほか、反対意見は、#1)TTABの手続での判断は、商標を登録してよいかどうか、取り消してよいかどうかを目的とするものであり、商標の侵害があるかどうかという裁判所の判断とは基本的に異なるということ、#2)TTABの判断に対する裁判所への不服申し立てをした場合には、裁判所はDe Novo(注3)で判断することになってるけど、それは商標法的には、やっぱりTTABの判断には拘束力を持たせないっていう趣旨だといえること、などを反対理由として挙げています。

多数意見によれば、#1)については、そりゃそうだけど、全く同じ状況のもとで同じ論点を判断することもなくはないでしょ、とのこと。例えば、マーク同士の誤認混同の可能性については、TTABでは一般には単に2つのマークを並べて比較するような感じで済ませることも多いだろうけど、実際の商業上の使用状況まで踏まえて判断することもあるし、その場合には裁判所での侵害訴訟での争点判断とほとんど同じでしょう、ということだと思います。ただし、多数意見は、そのような全く同じ、又はかなり似た状況のもとで同じ論点を判断することはそんなに多くはない、つまり争点効が生じることは多くはないことを認めています。

#2)については、TTABの不服申し立てに対する裁判所の判断基準と、争点効の判断は別でしょ、というのが多数意見の立場のようです。

(注3) ゼロから判断し直すこと。

TTAB手続の意義自体にも関わる判断であり、証拠の出し方その他当然今後のTTABでの手続に与えるインパクトは結構あるだろうなということのほかに、印象としては、結構射程を狭くとって使い勝手のよい感じに仕上がった判決のように感じられました。一般のウケも今までのところ悪くないようです。

どういう論点がどういうふうに争われたときにに争点効の要件を満たすといえるのか、例えばTTABの手続では、ディスカバリーや証人の生の証言が制限されているといった手続的な制約もありますので、個々の事件でその辺の事情がTTAB手続と裁判所手続で違うと判断される事情があれば、争点効は制限されるのかもしれません。そのようにしてさらに、射程の精度が今後高められることが想定されます。

既判力や争点効の根っこにあるのは、きちんと争って負けたら後で蒸し返さない、という広い意味での当事者主義、つまり手続保障を踏まえた自己責任だと思います。

行政の判断に、司法裁判所に対する制度的な拘束力を一般的に認めるこの判断は、アメリカで随所に感じる当事者主義に対する深い信頼のあらわれの一つといえるかと思います。

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