Startup界隈のお仕事に関わっていると、毎日のように「●●はシリーズAで□□から●ドル入れてもらったらしい」とか「△△はまだシードラウンドでエンジェルを探しているけれど、なかなかうまく行っていないらしい」というようなお話を聞きます。
シリーズなんちゃら、という言葉や「シード」とか「ラウンド」とか、Startup界隈の方には親しまれているこれらの言葉ですが、その正確な意味はどんなものなのでしょう?
まずはやっぱりGoogleから。「シリーズA」と検索してみたところ、「マネー辞典」さんというウェブサイトで
『ベンチャー企業に対し、ベンチャーキャピタル等が出資する段階のひとつで、起業したばかりのスタートアップ企業に対してなされる投資のこと。製品の企画、開発やそれに伴う技術開発などに対してシリーズAの投資がなされる。』
と書いてありました。ふむふむ。お次は「投資用語集」というウェブサイト。
『スタートアップ企業に対してベンチャーキャピタル等が出資する初期の投資ラウンドのことで、製品の企画、開発やそれに伴う技術開発などに対して投資がなされ、事業を開始し、技術開発によって製品を生み出すことが主眼となる』
と書いてあります。ふむふむふむ、この2つは似ていますね。これに対し、個人の方が書かれているウェブサイトでは、
『(シリーズAとは)開発試作を進めている段階。有望そうなアイデアであると、VCが参入する。優先株の発行を行う。』
とか
『VCの出資を初めて受ける段階をシリーズAとよぶ。』
などと書いてあるモノがみつかりました。むむむむむ。
で、では本場のサイトではどうでしょう(以下翻訳は意訳が含まれています。周辺の文脈も含めて検討されたい場合には原典をお当たりください。)。まずInvestopediaでは
『新しい企業がシードキャピタル後に経験する最初の資金調達ラウンド。一般的には、会社の支配権が外部の投資家にオファーされる最初の機会。シリーズA投資はPreferred Stockの形で提供され、その後のエクイティによる資金調達があった場合に希薄化防止条項が入る場合が多い。』
と書いてありまして(Preferred Stockを「優先株」と訳さない理由は以前の記事をご参照下さい。)、アーリーステージのハイリスク投資を行うVCやエンジェルが投資するものだよ、とされています。
弁護士のクセにWiki引用するな!とどこからともなくお怒りの声が聞こえてきますが、ブログなのでご容赦いただき、US Wikiで調べてみます。
「セリエA」…あれ?イタリアのサッカー?という罠をかいくぐりますと、
『会社の最初の実質的なVC投資ラウンドの典型的な呼び名。その呼び名は、当該投資の代わりに当該投資を行った投資家に対して発行されるPreferred Stockの名称による。』
と書いてあります。おおお!遂に語源らしきものが出てきました(Wikiですが笑)。
以上の流れから分かりますように、「シリーズA」という言葉には厳密な定義はなさそうですし、少なくとも法令用語でもありません。もう少し、今度は文献から詳しく探ってみましょう。1997年刊行の古い書籍ですが、名著の誉れ高い『ベンチャー投資の実務』(MVC/三井物産業務部編、日本経済新聞社)を参照してみます。
・米国では、1回1回の募集株式の発行(増資)のことを「ラウンド(Round)」と称していた(同書13頁)。
・「Round」の使い方としては、時系列に順番をつけて1st Round/2nd Round…と呼ぶこともあるし、会社の成長段階に応じてシード・ラウンド、アーリー・ラウンド、などと表現することもある。
・これに対し、『その時に発行する株式の名称に応じて「シリーズA・ラウンド」などと区別することもある。』(同書13頁)。すなわち、米国では、『条件の違う優先株を各ラウンドで次々と発行していくときは、発行順に「シリーズ(またはクラス)A、B、C…」などと、名前を付けて区別する』(同書20頁)ことが行われてきた。
以上のことから、当該ラウンドで発行する株式の名前をとって「シリーズA・ラウンド」と呼んでいたものが、いつの間にか「第1回の実質的な資金調達」と意味を変化させていった、というのが正解のように思われます(日本でも、ラウンド毎に発行する株式に「A種優先株式」などの名称を付すことはよくあります。その設計内容は案件によってまちまちですが。)。
なるほど!そうすると、ニュアンスとしては「シリーズA」=第1回の大規模な資金調達、ということが言えそうですね。ただ、前々回のポストで書いたように、いまやシリーズAの前のシードラウンドで$4.5Mのバリュエーションが付いちゃう時代。$1M以上のシードマネーをVCから集めるStartupさんたちだっています。そんな世の中では、一昔前のシリーズAといまのシードラウンドの調達をうまく「大規模な資金調達」という量の問題で区別できるんでしょうか。すなわち、「なんのために調達する資金なの?」という観点を入れた方が、より厳密な定義に近づいていくのではないか、と個人的には思うわけです。
言い換えると、スタートアップ界隈の環境も状況も、変わり続けている。ってことは、「シリーズA」という言葉の定義だけでなく、「シリーズAでやるべきこと」の意味も変わり続けているのでは??
次回、各ラウンドで調達したお金で何をどこまでやると次のラウンドに進めるのか、最新の議論を追ってみたいと思います。