できるかな?できるかな?と思いつつ、なんとびっくりできてしまった、今年最後の投稿です。
淡々と資本構成ネタを続けても良かったのですが、今年のトリは、アメリカの投資型クラウド・ファンディングについてSECがついに最終ルール案を公表しましたよ!!!という話です。
といっても、実は最終ルール案が公表されたのは、遡ること2ヶ月前の10月30日でございまして、すでに時宜に遅れていることは間違いないのですが、2016年に入ってしまうとさらに経年劣化が進んで、ブログに掲載するタイミングを完全に逃すような気がしたもので、最後に簡単に書いておこうと思います。
お忘れの方も多いかと思いますが、我々は今年7月に、旬刊商事法務という法律雑誌に、
「ベンチャー・ファイナンスの新手法 -日米における投資型クラウドファンディングの現在とその展望-」
という記事を寄稿しています。
会社法の大先生や某大手事務所の有名弁護士の論文に紛れて、TMIの、それもアソシエイトが2人で書いた論文が登場するというなかなか珍奇な例となりましたが、幸いご好評をいただいたようです。
それはともかく、その記事では、2012年4月にJunpstart Our Business Startups Act (JOBS法)の第三章に基づき全米レベルで可能になる予定の「投資型クラウド・ファンディング」を題材に、規制の概要や日本における「投資型クラウド・ファンディング」の現状、さらに、アメリカで各州内限定で行われている「投資型クラウド・ファンディング」の実例を基にした日本での「投資型クラウド・ファンディング」の在り方等々を云々かんぬんと論じていたのですが、その時点では、JOBS法第三章の施行に必要なルールを米国証券取引委員会(SEC)が定めていませんでした。
ルール案自体は、2013年10月に公表され、パブリックコメントも2014年2月には締め切られたのですが、その後、まったく音沙汰なしの状況が続いていて、みんな「いつ出るのかな~」と思っていたら、2015年3月にJOBS法第4章に基づくRegulation A+の方が先に最終化され、$50MまでのミニIPOが比較的簡易な情報開示等で可能になり、「もはや第三章に基づくクラウド・ファンディングとかいらないんじゃね?」といった雰囲気も一部で醸成されてしまったのでした。
そんな中、我々はあくまでJOBS法第3章に基づくクラウド・ファンディングについて書いたわけですが(でもちょっとだけRegulation A+にも触れました)、その際、とある米国政府のサイトに、JOBS法第三章に関するルールは2015年10月に最終化されるよといった記載がありました。なので、論文では「2015年10月にファイナルアクションが行われるみたいだよ」と書いたのですが、実のところ、「ほんとかな~?」と訝っていたのでした。・・・が、どうやら本当だったらしく(笑)、2015年10月30日に、めでたくSECから最終ルール案が公表されるに至ったわけです。
→SECの最終ルール案の本体(英語)はコチラ(注:コメント等も含め600ページ以上あります)
正直なところ、公表されていたルール案とあまり大きな違いはなく、予想通りの内容ではありました。
しいて大きな変更点を挙げるとすれば、ルール案の時点では、$500,000以上$1M以内の資金調達をする際には、基本的には、監査済みの計算書類を提供する必要があるとされていたのですが、最終案では、初回に限り監査済みの計算書類でなくても良い(ただし、Public Accountanによるレビュー済みであることは必要)こととされています。$1Mぽっちの資金調達に監査済みの計算書類を要求することについては、それこそ関係者から非難轟々だったのですが、SECもその点を踏まえ、多少譲歩したようです。なんとも微妙な着地点ではありますが。
ちなみに、アメリカ以外で設立された会社については、JOBS法に基づく投資型クラウド・ファンディングを行う資格はないとされていますので、日本の株式会社でやっているスタートアップは、JOBS法に基づく投資型クラウド・ファンディングは利用できません。
そういった意味でも、あまり皆さんの関心は高くないお話かと思いますが、JOBS法に基づく投資型クラウド・ファンディングの基本事項について、以下でごく簡単にQA形式でまとめておきましたので、ふとした折にご参照いただければ幸いです。
ということで、今年最後の投稿と相成りました。
思い起こせば、今年の1月初頭に、元旦に日本を飛び立った小川とともにヨタヨタしながらブログを開始し、途中で波多江を同志に加えながら、突っ走ってまいりました。シリコンバレーに、年次の近い3人が集まったキセキを最大限活かすべく始めた取り組みでしたが、若干音信不通になった時期もあったりなかったりしながらも、皆さんからの応援もあり、なんとか1年間継続できました。
来年も引き続き頑張ってブログを更新していこうと思います。
マニアックなスタートアップネタが多いという声も若干聞こえてきたり聞こえてこなかったりしますが、来年は、皆さんが「読みたい!」と思えるような魅力的な記事を、もっともっと書いていきたいと思っています。
日本はもう大晦日の午後ですね。除夜の鐘が近づいてきました。2013年に渡米して以来、「ゆく年くる年」を見れていないのですが、年越しそばを食べつつ、各地で除夜の鐘をお楽しみください。
今年も本当にお世話になりました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
竹内拝
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【アメリカの投資型クラウド・ファンディングQ&A】
1.誰がJOBS法に基づく投資型クラウド・ファンディングを利用できるの?
米国籍の会社であれば基本的に利用できますが、いくつか例外があります。
例えば、
① すでに1934年証券取引法に基づいて継続開示義務を負っている会社
② 一定の投資会社
③ 過去に投資型クラウド・ファンディングに関するルールに基づく開示義務を怠ってしまった会社
④ 特定のビジネスプランのない会社
⑤ 不特定の他社との合併等を目的としている会社
は利用できないとされています。
2.投資型クラウド・ファンディングで調達できるのはいくらまで?
12ヶ月間で最大$1Mとされています。ただし、調達額によって、開示が必要となる情報が異なってくることに注意が必要です。具体的には、資金調達額が$100K以下、$100K超$500K以下、$500K超の場合のそれぞれで、開示が要求される計算書類等のレベルが違ってきます。
3. 具体的にどのような情報を開示しなければならないの?
Form Cという書式に基づいて情報開示が必要となります。
Form Cでは、色々と情報が要求されていますが、ちょっと手間がかかりそうなものとしては、例えば、
① 調達資金の使用目的
② 事業の内容
③リスクファクター
④各期の動向等に関する議論・分析等
が挙げられます。
また、開示を要求される計算書類も、調達額によって違ってきます。
① 調達額が$100K以下の場合:
重要役員(Executive Officer)によって確認された計算書類(ただし、レビュー又は監査済みの計算書類がある場合にはそっち)
② 調達額が$100K超$500K以下の場合:
Public Accountantによってレビューされた計算書類(ただし、監査済みの計算書類がある場合にはそっち)
③ 調達額が$500K超の場合:
Public Accountantによって監査された計算書類
また、その後は、ほぼ同内容のアニュアル・レポート(Form A-R)の提出も必要になります。
やっぱり結構メンドクサイですね。
4.アニュアル・レポートは永遠に提出し続けなければならないの?
一定の事由を満たした場合には、提出義務がなくなります。
その事由としては、例えば、
① 証券取引法に基づいて継続開示義務が生じた場合
② アニュアルレポートを1度提出しており、かつ、株主が300名未満である場合
③ アニュアルレポートを3回提出しており、かつ、総資産の額が$10M以下の場合
④ 会社が解散・清算した場合
といったものが挙げられます。
5.どんな証券であっても投資型クラウド・ファンディングを実行できるの?
できます。証券の種類については、特段制限が設けられていません。普通株、種類株、はたまたConvertible Noteのような債務証券でもOKです。
6.会社が勝手に投資型クラウド・ファンディングで資金調達できるの?
投資型クラウド・ファンディングを行うにあたっては、会社は「仲介者」を挟まなければなりませんし、オンラインで行わなければなりません。「仲介者」は、証券法に基づき登録されたブローカー又は「ファンディング・ポータル」です。もちろん、仲介者に対してFeeを払う必要も生じますので、その意味でも、ちょっと負担が生じます。
7.誰でも好きなだけ投資型クラウド・ファンディングを通じて株式を取得できるの?
個人については、12ヶ月以内に取得できる株式の総額に制約があります。
具体的には、
① 個人投資家の年収又は純資産の額が$100,000未満の場合:
(i)$2000又は(ii)年収又は純資産の額の5%のいずれか大きい額(つまり、最大約$5000)
② 個人投資家の年収及び純資産の額が$100,000以上の場合:
(i)年収の10%又は(ii)純資産の額の10%のいずれか小さい額
8.投資型クラウド・ファンディングを通じて取得した株式は譲渡できるの?
購入日から1年間は、発行会社、認定投資家や家族等に対して行う譲渡を除き、基本的に譲渡できません。でも、1年経てば譲渡可能です。
9.最終ルールの発効日はいつ?
ファンディング・ポータルの登録に必要なフォームについては、2016年1月29日に効力が発生しますので、それ以降、ファンディング・ポータルの登録が可能になります。
その他のルールやフォームは、「Federal Register」(日本でいうところの官報のようなもの)に掲載後180日後に発効とされています。Federal Registerには2015年11月16日付けで掲載されており、2016年5月16日に発効するようです。
10.この投資型クラウド・ファンディング、ぶっちゃけ使われるの?
正直言って、分かりません。「調達できる金額の割りに負担が大きすぎる!」という批判が関係各所から上げられ続けていますが、実際にどうなることやら。Regulation A+に基づくミニIPOの動向と併せて、2016年の動きに注目したいと思います。