先日、暑い中、情報通信政策研究会議(ICPC)の夏会合@武蔵大学というものに行ってまいりました。
テーマには、「プライバシーの現在」、「業法規制と製造物責任法からドローン、ITSを考える」などなど、このブログとも比較的親和性のある、筆者の好物が並んでおりました。
宮下紘先生スゴ過ぎるな(近々本が出るそうです)、同年代の(あるいは筆者より若い)研究者も同業者も頑張っているな、日本でChristopher Yoo教授(注1)を知ってる人(しかも複数)に初めて会ったな、そして何より、大学っていいな・アカデミックもいいな、などなどいろんなポジティブなエネルギーをもらった1日でした。このような場があることはとってもイイことですね。
(注1) 筆者が米国ロースクール時代にアツイ指導を受けた教授。テクノロジー、法、経済学のマスター。訳しても分からないだろうから書くと、ちょっとグーグーガンモに似ている。なお、来月来日して講演することをこの時知った。今もごくたまに連絡を取っているが、全然聞かされていない。
政策
その日は、ドローンやロボティクスに関する日本の政策の進行状況について話が出ていました。経産省のHPなど見ますと、結構議論が進んでいるんだなという印象も持ちますが、同時に、個人的には、もっとビジネス目線も加味してもよいのではないかと思い、そのような意見を述べました。例えば、ドローンに関する規制を考えたとき、危ない、プライバシーが覗かれる、という問題がありますが、そのデメリットとメリットのバランスを模索するのが法律作りや政策だと思います。で、今回のドローンに関していうと、日本の政策議論が、メリットの部分をあまりというかほとんど見ていないように感じられたのです。
Shuya選手が以前書いたように、シリコンバレーを含む米国やその他の国では、ドローンを活用した面白いビジネスというかアイディアが、次々と出てきているようです。そもそも「楽しい!Whooo!」という感じのアメリカ人と(←筆者の偏った見方かもしれませんが(注2))、比較的慎重な日本人とでは気質が違うということもあるかもしれませんが(注3)、ドローンというおもちゃに近いモノであっても、可能性は無限大だと思うし、そこを掘ってアプリケーションを広げていこうぜ、というのがイノベーションだと思うのであります。
もちろん、「炭疽菌を散布されたらどうするのか」などと言われると、それはきちんと対応しないといけないわけで、勇み足で大事故が生じてはいけないのですが、社会的に許容できる範囲の試行錯誤、トライアンドエラーを許すのがイノベーションの第一歩であり、そこに経済がついてくるんだろうと思います。
(注2) 個人的には、米国で慎重派なのは、当局だけという印象でした。ところで、ドローンの規制案が3月に出てから、米国の規制ルール作りについては、私の知る限り大きな動きを見せていません。一応、やはり「厳しすぎる」ということで、公聴会でも、当局であるFAAから、VLOS(視認運行)義務を緩和の方向で進むとの発言もあったようで、年内くらいにはセカンドバージョンの規制案が出るのでは?とのことです。アマゾンがアップを始めているハズ。ついでに言うと、つい先日、米国ではドローンで過疎地に医療用品をデリバリーする許可第1号がFAAから出たようです。NASA等と組んでいるオーストラリアのスタートアップみたいです。
(注3) 筆者と同世代の男性でも、ドローン危ないなぁと言っている人がいて感覚の違いに少し驚いたことが最近ありましたし、日本では公園等で「ドローン禁止」の看板が結構あるみたいですが、流行る前から禁止しすぎな気もします。
ドローンのその後
さて、以前書きました、ホワイトハウスからNTIAという組織に投げられたというドローンにまつわるプライバシーその他に関するルール作りについては、やはりまだ骨組みさえ明らかになっていないと思いますが(注4)、報道によれば、マルチステークホルダープロセスによる議論が8月3日から始まる(月イチで11月まで)というところまで来ているようです(注5)。2月の規制案の公表から、かなり時間がかかりました。
(注4) パブコメはコチラから見られます。殆ど読めていませんが、「遊園地上空飛行禁止にして」(遊園地の業界団体)など、結構面白そうです。あと、FAAは、下に述べるEASAからの提案と同様、ドローンを3つのカテゴリーに分ける案も検討中という記載も見かけました。
(注5) ウェブキャストで公開され、リモートで参加できるようです。
それから、州法では、フロリダ州が、最近になって、改正(注6)ドローン規制法を通しました。「ドローン使用者は、プライバシーの合理的な期待が存する場合には、監視や調査(surveillance(注7))の目的で、私有地上のモノや個人を、本人の同意なくして撮影してはならない。」訳すとざっとこんな感じです。このルールの違反は、直ちに請求原因を構成し、プライバシー侵害を理由とした損害賠償請求がしやすいルールになっています。また、敗訴者弁護士費用負担がセットで定められており、訴訟が多数起きる可能性があります。
適用除外(例外)もあり、例えば、州からライセンスを受けている場合で、そのライセンス業務と関連があるとき、不動産鑑定業務、電気・ガス等の公共施設設備の撮影、航空写真地図撮影、貨物等運送等はOK。報道や農業での使用、高層ビル管理、スポーツイベント等の撮影等は原則どおり禁止です。このフロリダ州法に関しては、コチラを参考にさせて頂きました。詳しいです。
(注6) フロリダでは、2013年の法律で、州政府機関(←警察等に限らず行政組織全般が含まれるようです)が証拠その他の情報収集目的で、令状なしにドローンを使用することを禁止していました。ちなみに例外は、リスクの高いテロ活動に対応する場合、人命に対する急迫の危険あるいは財産に対する深刻な損害を避ける目的の場合、行方不明者捜索目的の場合等。
(注7) 少しずれますが、「サーベイランス」については、冒頭で述べたICPCでも結構議論されていました。プライバシーというとき、それはいろんな意味合いを含んでいますが、プライバシーの最もコアな部分を犯す行為は、盗聴や監視といったサーベイランスなのかもしれない、と議論を聞いて思いました。大阪駅構内顔認証システムが「気持ち悪い」のは、もっともなことです。
なお、本文で述べているフロリダ州法にはsurveillanceの定義があります:
With respect to an owner, tenant, occupant, invitee, or licensee of privately owned real property, the observation of such persons with sufficient visual clarity to be able to obtain information about their identity, habits, conduct, movements, or whereabouts; or
With respect to privately owned real property, the observation of such property’s physical improvements with sufficient visual clarity to be able to determine unique identifying features or its occupancy by one or more persons.
広汎かつ不明確と批判されていますが、参考にはなります。
また、ニュージャージー州では、重要インフラ施設の上でのドローンによる写真撮影を禁止する州法案に対する議論が盛り上がっているようです。目的はインフラの保護だと思われますが、反対理由はもちろん表現の自由。
最後にEUですが、3月にEASA(European Aviation Safety Agency)というところが、EUでの規制案(注8)を提案したもよう。概要としては、民間のドローンをリスクに応じて3つのカテゴリーに分けて、一般のドローンが該当するであろうリスク「小」カテゴリーについては、ライセンス不要、VLOS(視認飛行)必要、高さは150メートルまで、空港や自然保護地区は飛行禁止といった感じで、これも参考にしながら、欧州委員会のオフィシャルな規制案が、今年の12月に出るそうです。
(注8) ドイツでは25kg以内でなければならない、イギリスでは20kgより重いドローンは有人飛行機と同じ規制、など、現在は国によってバラバラの状態。
プライバシーに関しては、EUのArticle29 Working Partyというところが、ガイドラインに近いような意見を出しています。プライバシーバイデザインあるいはプライバシーバイデフォルトをやりましょう、それから、特徴的なのは、ドローン製造者に対して、ドローン使用による潜在的なプライバシー侵害について、製品の箱に記載するなど、周知をしていきましょう、といったないようになっています。
今後も情報を追いかけます。