「ベンチャーデット」という言葉、お恥ずかしながら僕はベンチャーキャピタルで働くまで知らない言葉でした。今日と次回、そのベンチャーデットについて少しお話してみたいと思います。
(1) どうやって活動資金を集めるか? -日本の場合
Startupが活動資金を集めるとき、日本だとどうやって集めるでしょう?まず初期的な段階で考えられるのは、両親や兄弟、友人などからお金を集めることですよね。またはエンジェル投資家からお金を入れてもらうこともあるでしょう。これらの初期的投資家の方々からお金を入れて貰う方法は、基本的に株かエクイティにリンクした債券(ストックオプションや新株予約権付社債など)になります。これは、トレックレコード(これまでの起業実績)があるアントレプレナーの方が起業しているため、かなり初期の段階からVCでの調達を行うことができるようなケースでも同じ。
これに対し、日本には伝統の資金調達方法がありますね。そうです、銀行さんです。日本の銀行さんは、3メガさんと各地銀さん、それぞれがかなりきめ細やかな貸し付けの審査と条件設定を行っています。伝統的に日本では「必要な資金は銀行から借りるのが基本」という社会的風土がありますから(半沢先輩も「銀行員としての本業だ!」と嬉しそうに壇密さんのネイルサロンの与信をやっておりました。)、銀行さんはそれぞれStartupへの貸付けも経験豊富な場合も多いです(「Startup」というとイメージがつきにくいかもしれませんが、日本の中小企業だって元々はStartupだったわけです。)。
すなわちそれぞれの銀行さんがノウハウをお持ちなのですが、例えば、Startupはキャッシュフローが潤沢でなく(というか初期にはポジティブCFは発生していません。)、基本的に事業計画はあくまで「計画」ですから(100%計画通りに推移するStartupなんて普通はあり得ません。)、Debtファイナンスを付ける銀行さんとしては回収可能性をある程度担保しないと貸付を行うことができません。そこで文字通り活用されてきたのが、担保です。
担保は人の担保と物の担保に分けられますが、Startupが銀行からお金を借りるフェーズで担保に提供できるような物なんか持っているケースは極めて稀。というわけで、日本伝統の「代表者の個人保証」という「人」の担保の活用が図られてきたのでした。この「代表者の個人保証」の功罪は色々と議論のあるところでして、今年の通常国会に提出が予定されている民法の債権法改正案でも個人保証については色々な修正が加えられそうですが、その案の成立までにも当該「功罪」を反映した様々な議論があったようです。
とまあ日本のStartupさんは、①株系、②借金系、の2つのルートで当初の資金を賄っていくわけです。そして、この2つが基本的なルートだ、ということは、何もシード段階だけではありません。会社が大きくなっても、基本的にはこの2つで資金調達を行っていきます(バランス良くデットとエクイティで資金調達をすることは、B/Sを綺麗にするというコーポレート・ファイナンス上の観点からも重要です。)。
(2) どうやって活動資金を集めるか? -アメリカの場合
これに対し、アメリカのStartupさんたちはどうでしょう。まず基本的に、①VCやエンジェルを中心とする「エクイティに出資するプレイヤー」と、②マーチャント・バンクを中心とする「デットに出資するプレイヤー」、がいるという構図は変わりません。
勿論、アメリカの方が集められる額が大きいとか、事業会社さんがエクイティに出資するハードルが低い(企業風土の問題)といった差はあります。でも、基本的な構図は同じなのです。
ですが、一つ、日本と大きく違うところがあります。それは、「ベンチャー・デット」と呼ばれる①と②の中間的な業態が存在するということです(日本でも似たような動きは出始めてきているとも聞きますが、まだまだこれから発展していくフェーズです。)。
ベンチャーデットの活動方針は以下の通り。
(1) Startupに対し、Debtファイナンスを実行します。
(2) 担保はとりません。
(3) Warrant(新株予約権)なども取得し、アップサイドも狙います。
まさに、①と②の中間ですよね。気になるのは(2)です。なんで担保を取らないでやっていけるのか?ここにはアメリカのエコシステムならではの工夫があります。次回、Silicon Valley Bankなど主要なベンチャーデットの活動とその工夫などをご紹介します。