こんにちわ。最近、寝る前にその日1日にポストされたTech Crunchの記事に目を通している竹内です。
BizLawInfoのTwitterアカウントには、何のコメントもついていないTech Crunchの記事が複数投函されていますが、あれは自分のGmailに送るよりTwitterに送る方が手間が少ないので勝手に投函しているだけです。ええ、完全に備忘録です笑
さて、そのTech Crunchの記事ですが、いろいろ目を引くものはあるものの、ここ最近やたらとUber関係の記事を目にしました。
振り返れば、小川隊員が1年くらい前に「Uberのピンチ?」と題して、Uberドライバーが従業員かそれとも独立の個人事業主なのかという点に関する争いが今ホットだぜ!といった記事を書いていたのですが、その論争がカリフォルニア州とマサチューセッツ州では決着を見た(と思った矢先に、全米各州で同じ論争が火を噴いた)というのが直近の状況です。
今回のポストでは、なにかと話題を振りまいてくれるUber先生の最近の状況をTech Crunchの記事を基にまとめつつ、僕がもっとも目からうろこの落ちたUberドライバーが個人事業主であることの帰結についてちょっくら書いてみたいと思います。
では、まずはこちらのポストから。ちなみに、時系列は無視して掲載していますのであしからず。
このポスト、UberのStock Optionの問題点についてちょっと掘り下げて議論している記事です。
最近「Their Vested Stock Options Longer」という記事を契機にシリコンバレー界隈でにわかに注目を集めている
「Stock Optionをやめてから90日以内に行使しなくちゃいけないなんて実際無理だよね問題」
にも触れられていますが(この問題自体は、YCのSam Altman氏が2014年の4月の記事で問題提起していますが、最近にわかに注目をあつめているようです)、その他にも、UberのStock Optionの設計が従業員に対してUberをやめないように動機付けるよう(ある意味上手に)設計されていることを明らかにしていて、非常に興味深い記事です(だから“Hundcuffed to Uber”というタイトルになっているわけです)。
この記事は、僕がベイエリア界隈でスタートアップに熱い思いを抱いているナイスガイ達とやっているリーガル勉強会でも話題になった記事で、勉強会に参加した人はみんな興味津々の様子でした。
インセンティブって、スタートアップにとっては超重要な反面、正確に理解している人が意外と少ない分野でもあるので、スタートアップに関心のある方はしっかり勉強した方が良いと思います。
ところで、シリコンバレーに来て強く思うことですが、こちらのインセンティブをはじめとする各種の制度は人間の行動特性(人間が実際のところ何を動機にして動くか)をよく理解した上で作られているよなーと思います。
個人的な感覚ですが、日本ではそんな人間の特性(なんだかんだで人間は欲に従って動きまっせという特性)にオブラートを何枚もかぶせてしまう傾向があるような気がしています。
話は脱線しますが、僕が若かりしころに貪り読んでいた堺屋太一氏の著書でも、実際のところ人間が行動を起こす動機の順位は、一に恐怖、二に利益、三に信義であるといったような考察が述べられていましたが、最近、改めて得心しているところです。
では、次の記事に行きましょう。
(2) Uber and Lyft shutdown in Austin after voters defeat Proposition 1
これもなかなか面白い話です。
Texas州のAustinで、UberやLyft等の運転手になるにあたって指紋に基づいたバックグランドチェックを義務付ける法案が提出された一方、(Uber等のロビー活動の成果か)それに反対する反対案が提出され、最終的に住民投票にまでもつれ込んだ結果、反対案を否決することについて住民の過半数が賛成したという話です。話がねじれまくってますが、要するに、指紋ベースバックグランドチェックを義務付ける法案に対する賛成意見が勝ったということです。
しかし、自前のバックグラウンドチェックに自信をもっているUberとLyftからすれば面白い話であるはずもなく、「じゃあいいよ」ってことでAustinなんかで営業してやらねーよと、そんな強行手段に出ることも検討しているようです。
と、そんなことを書いていたら、なんと↓の記事が。。。
(3) Uber and Lyft ‘pause’ Austin operations today in standoff over regulation
Austinでの営業を本当にとめたらしいです笑
相変わらずやることがすごいですよね。自分のサービスの便利さが広く認められていることを前提とした政治的行動なんでしょうが、現にこのような行動を起こしてきたからこそ、どっからどう見たって白タクとしか見えないこのサービスが(スイマセン)カリフォルニア州をはじめ適法になってiいる州もありますし、他の州や国でも少なくとも議論の遡上にはあがっているわけです。
しかし、こんな政治的な動きを日本でしようものなら、政府からも国民の皆様からも完全にイロモノ扱いされてしまうような気がします。
お上がなんと言おうと、「え?それってチョー便利じゃん。むしろお上がおかしいんじゃね?」と堂々と言える一般国民の方々が多数いることが、この国でイノベーションが生み出され続けるひとつの素地になっているのかもしれませんね。
さて、次の記事。
近時公開されたUberがらみの記事なんで、一応紹介です。
Uberの運転手にチップ払おうよってな記事ですが、特段コメントはありません。
個人的には、アメリカのチップ制度の中で最も支払うことの意味が分からないチップがタクシーの運転手に対するチップなので(だって目的地に連れていってくれるのはサービスそのものだし、基本的にその他に何も付加的なサービス提供してないじゃないですか。よっぽどおもろいトークをしてくれたとかなら別ですが)、Uberだろうがタクシーだろうが、いずれにせよチップを払うことに合理的な意味を見出せないのですが。。。
Uberの場合、例えば15分もかかる彼方からわざわざ僕ごときを拾いにきてくれたのであればチップを払った方がいいのかもしれませんが(Palo Altoくんだりでは結構起こります)、でも向こうだってこっちのリクエストに応じないっていう選択肢だってあるわけですしねぇ。。。
気を取り直して、次に行きましょう。こっからが本題です。
(5) Uber is facing a nationwide class-action lawsuit
Uberが、カリフォルニア州とマサチューセッツ州の2州を除く州で、Uberの運転手から彼らが独立の個人事業主ではなくUberと雇用関係にある被用者(Employee)であることを前提に多額の金銭的請求を受けてまっせという記事になります。
この「Uberの運転手さんが個人事業主か従業員か問題」自体は、特段目新しいものではなく、小川隊員も約1年前に記事にしている内容です。
ちなみに、僕が先日乗ったUberの運転手さんは、「ワシントン州のシアトルではUberの運転手は従業員として扱われているよ。ちきしょーうらやますぃ!」的な話をされていたのですが、別の記事を見る限り、労働組合を結成する権利が認める法案が可決されたという話のようですね。
それはさておき、この記事によると、Uberの運転手さんたちは自身がUberの従業員であることを前提に時間外勤務の給料ですとか本来自身が受け取るはずだったチップとか、そういったものをいっさいがっさいUberに請求しているようです。
「本来自身が受け取るはずだったチップ」とかいったいどうやって計算しているのか分かりませんが、まだまだUber騒動は静まりそうにないことを印象付けられますね。
ところで、なぜこの記事でカリフォルニア州とマサチューセッツ州が除かれているのかといいますと、それには、つい最近カリフォルニア州とマサチューセッツ州でUberと運転手さんとの間で和解で解決したクラスアクションが大きく関与しています。
具体的には、次の記事になります。
(6) Uber strikes $100M class action settlement to keep drivers independent contractors
記事のタイトルからもわかるとおり、なんとびっくりその和解の金額は最大$100Mです。
「最大」となっているのは、記事によると、Uberは現時点で$84Mを支払い、さらに上場してその際のValuationが現時点のValuation($62.5B)の1.5倍になっていた場合には追加で$16Mを支払いますという内容になっているからです。運転手さんたちも上場時に分け前に預かれる、なんともアメリカらしい和解案ですね。その代わりとして、運転手さんたちの地位は従業員ではなくあくまで個人事業主扱いと言うことが確認されてはいるのですが、それにしたって最大$100M!アメリカのクラスアクション訴訟のすごさの一端を垣間見た思いです。
もちろん、クラスアクションですので、多くのUber運転手さんが関与しているわけで、一人の運転手さんが$100Mを得たわけではありません。
この記事によると、クラスアクションに参加した運転手さんは38万5000名いたとのことですので、ごく単純に頭割りで計算すると一人当たり約$218(上記の条件で上場するとプラス約$41)となり、まあ一人当たりの額はたいしたことはないのですが、、、ほぼ何もせずにこの金額がもらえるのであれば、とりあえず参加してみようと思う運転手さんはたくさんいるでしょうね。で、ちりも積もって最大$100Mなわけです。そりゃあ他の州でも訴訟をけしかけてみたくなりますね。主に弁護士が、ですが。。。
ということで、実際にそんな訴訟が起きちゃってますよというのが先の記事の内容で、カリフォルニア州とマサチューセッツ州以外の全米各州で「Uberの運転手は従業員だよ訴訟」がまだまだ絶賛炎上中ですよというお話でした。
でも、今回取り上げたかったメインのお話はこれではありません。
メインのお話は、この訴訟でUberさんが頑張って主張されている「運転手は従業員じゃなくて個人事業主ですよ」という点から派生してしまった問題点に関する以下の記事になります。
(7) Uber and Lyft drivers need to obtain business licenses in order to drive in SF
かいつまんで言うと、サンフランシスコ市が「Uberの運転手が従業員じゃなくて個人事業主だっていうことなら、サンフランシスコ市内で年に7日以上Uberの運転手している方はちゃんとビジネスライセンスの登録してくださいね。え、登録料?人によりますが、売り上げ$100,000以下ならお一人様年間$91ですね。市内でUber運転手をしている人の数からすると、合計で$3M超になりますかね。ヨロシク。」なんていう、すごく頭の良いことを思いついてしまったというお話です。
この市レベルでのビジネスライセンスというのは結構クセモノで、スタートアップを始める際に忘れがちな行政手続きのひとつなのですが(くわしくはコチラ)、「Uberの運転手はUberの従業員ではなく、あくまで独立の個人事業主」という立場を貫くと、Uberの運転手さん個人で市レベルでのビジネスライセンスの取得が求められることがあり、そのことにいち早く気付いてしまったのがサンフランシスコ市ということになります。
「取得が求められることがあり」と書いたのは、必ずしも全部の市でUberの運転手のような方々にビジネスライセンスの取得が要求されているわけではないからです。例えば、僕が住むPalo Alto市では、市内にオフィスを構えていればビジネスライセンスの取得が必要になるようですが、そうでなければ必要ないようです。
他方で、サンフランシスコ市は、San Francisco Business and Tax Regulations Code Section 853で
「no person may engage in business within the City unless the person has obtained a current registration certificate」
と書いてあり、特にオフィスがサンフランシスコ市内にあることが要求されていませんので、Uberの運転手さんにもビジネスライセンスの取得が必要という話ができます。
ちなみに、運転手さんにビジネスライセンスが必要な条件として「年に7日以上」という要件が課されていますが、この大本の根拠はまだ見つけられていません。ただ。サンフランシスコ市のBusiness Portalに「engage in business within the City」の具体例として「Drive on SF streets for business purposes for all or part of any seven days during one fiscal year」というものが挙げられており、これに従って運用がなされているようです。
まあルールはルールですし、所定のライセンス料を支払えばよいだけなので、とりたてて大騒ぎすることのほどでもないのかもしれませんが・・・記事によると、Lyftのスポークスマンは
「People in San Francisco, who are choosing to drive with Lyft to help make ends meet, shouldn’t have to compromise their privacy in order to share a ride」
と言っていて、お上に個人が補足されることを嫌がるアメリカ人らしいコメントを提供していますね。
ところで、この問題、何もUberの運転手に限られた話ではありません。Airbnbしかり、Social Lendingしかり、airpnpしかり、シェアリング・エコノミーが発展し、個人が気軽に自分のリソースを他者に提供してお金を得られるようになった状況下では、うっかりすると明日には自分のことになっているかもしれません。
このことは、日本でも一緒ですね。幸いなことに日本では、仮に個人事業主として市区町村レベルに届け出たとしてもそれでライセンス料を取られることはないですが、事業税は納めないといけなくなります。個人事業主としてではなくあくまで副業として雑所得扱いにしたとしても、一定額を超える収入がある場合にはきちんと確定申告をして税金を納めなければなりません。
サンフランシスコ市のビジネスライセンス料も平たく言えば税金ですので(だから、登録先もTreasurer & Tax Collectorになってます)、まあ結局は市内で稼いだ分はちゃんと税金払えと、そういうお話なのかもしれませんね。
ということで、大した新情報も書いてないですが、Uberに関する近況報告(?)でございました。
日本はもう週末ですね。GW明けの1週間、いかがでしたでしょうか?よい週末をお過ごしくださいませ。