はい、案の定投稿が滞りました。またしても久しぶりの登場です。しかも実質的な法務記事は2か月ぶりというこの体たらく。。。いかんですね。反省反省。
さて、今回もSAFEの続きです。
SAFEの書面を読んでいくと、最初の方に「SAFE Preferred Stock」という定義語がでてきます(Cap&Discount RateとDiscount Rate Onlyの場合)。さらに、Cap Only のバージョンを読んでみると、SAFE Preferred Stockに加え、Standard Preferred Stockというものまで登場し、「なんじゃこりゃ?」という疑問にぶち当たります。
で、それらの定義ですが、もちろんSAFEの中にしっかり登場していまして、「Definitions」のところにしっかり書いてあるわけです。
試しに、Cap&Discount Rateのバージョンの「Definitions」のところを見てみると、
“Standard Preferred Stock” means the shares of a series of Preferred Stock issued to the investors investing new money in the Company in connection with the initial closing of the Equity Financing.
“Safe Preferred Stock” means the shares of a series of Preferred Stock issued to the Investor in an Equity Financing, having the identical rights, privileges, preferences and restrictions as the shares of Standard Preferred Stock, other than with respect to: (i) the per share liquidation preference and the conversion price for purposes of price-based anti-dilution protection, which will equal the Conversion Price; and (ii) the basis for any dividend rights, which will be based on the Conversion Price.
つまり、Standard Preferred Stockというのは「Equity Financingの初回クロージングにおいて金銭を投資する投資家に対し発行されるPreferred Stockのこと」であり、SAFE Preferred Stockというのは「①清算時優先権と価格を基準とした希釈化防止のためのConvertion Price(転換価格)、②Convertion Price(転換価格)である配当の基準との関係以外では、Equity Financingにおいて投資家に発行されるStandard Preferred Stockと同一の権利、優先権や制限を有するPreferred Stock」とされています。
まどろっこしい書き方ですが、要するに、両者は、次回のEquity Financingの際に投資家に対し発行されるPreferred Stockという点では基本的に一緒だけど、Convertion Price(転換価格)についてだけは違いますよと言っているわけです。
では、なぜConvertion Priceについて違いが出てくるのでしょうか。Conversion Priceは、まず、SAFEがいったい何株のPreferred Stockに転換されるのかを計算するにあたって用いられる数字です。
SAFEの購入価格÷Conversion Price = 転換されるPreferred Stockの数
というわけです。
そうすると、このConversion Priceは、要するに「Preferred Stock一株あたりの購入価格」と同じ意味ということになるわけですが(ここから先は、あえて「購入価格」というワードで突き進みます)、じゃあその購入価格が普通にPreferred Stockに投資する新規投資家の方々と同じかというと、必ずしもそうゆうわけではありません。
というのも、SAFEには、Valuation CapやDiscount Rateが付いているのが通常だからです。
Discount Rateが付いていれば、当然、新規投資家の購入価格から●%引きで転換されるわけですし、Valuation Capのみがついている場合であっても、(特に最近かな~りバブル気味で、Valuationが異様に高騰しているシリコンバレー界隈では)多くの場合Valuation Capが効果を発揮することになり、新規投資家の購入価格よりも安い価格で転換されることが多いのが現実です。
で、この新規投資家とSAFE保有者との間にある「購入価格の差」をきちんとPreferred Stockの内容に反映しましょうよというのが、「SAFE Preferred Stock」というものが設けられた趣旨になります。
Prefererd Stockの購入価格は、Liquidation Preference(清算時優先権)で優先的に支払いを受けられる額ですとか、配当額に優先権がついている場合の優先配当の額ですとか、あるいは、希釈化防止条項が発動される基準となる株価ですとかに用いられるもので、Preferred Stockの経済条件に関係していますので、低い購入価格で引き受けられたPreferred Stockにはその価格のみ優先権等を与えましょうと、こうゆうワケです。
当たり前のように思われると思いますが、実は、Valuation CapやDiscount Rateが定められていて、新規投資家よりも低い価格で株式に転換される(=ちょっと多めに株式がもらえる)けれども、Preferred Stockの内容は新規投資家と完全に同じ(=購入価格に差は設けない)というパターンもかなりあります。
特に、Convertible Noteが次回の出資ラウンドの時に転換される場合に、このパターンになることがよくあります(僕も、昨年の9月以来、かなりの数のSeries Financingを見てきましたが、ほとんどがこのパターンです)。
厳密に考えると、SAFEのように正確に購入価格が反映されるほうが合理的なように思えますが、ちょっとめんどくさいのも事実。というのも、購入価格に差を設けるためには、形式上は別の類型のPreferred Stockを作る必要があるからです。例えば、購入価格を$1としたSeries A Preferred Stockを発行する場合に20%のディスカウントを反映しようとすると、Series A-1 Preferred Stockなる枝番優先株を作って、その優先株の発行価格を$0.8と定めなければなりません。とはいっても、単なる枝番優先株であって、Series Aと基本は一緒ですから、単に事務作業が増えるだけではあるんですが、、、例えば、Discount RateやValuation Capが異なるいろんなパターンのSAFEを発行していたりすると、Sries A-2、A-3、A-4・・・とか登場しかねないわけでして、、、やっぱりめんどくさい面があることは否定できません。さりとて、購入価格を正確に反映したところで、そんなにべらぼうな差がでるわけでは通常ありませんので(Valuation Capの場合には、べらぼうな差になることがあり得ますけどね)、そんな差は無視するというのも、ある意味では合理的な選択ではあると思います。
結局は決めの問題になるわけですが、
「少なくともSAFEを使用した場合には、Standar Preferred StockとSAFE Pereferred Stockという概念を通じて、Disctount RateやValuation Capから生じる1株あたりの購入価格の差が正確に反映されることになりますよ」
という点を最後に強調して、今日は終わりにしたいと思います。
先週前半まではまさしく焦げるように暑かったんですが、後半からだいぶ涼しくなりました。秋(というコンセプトがここにあるのかはいまだに不明ですが)も近し、シリコンバレー。でわ。