日米スタートアップ投資のお作法比較 ~基礎編その①~

いや皆様、大変長きに亘り幽霊部員化しておりました小川でございます。僅かながらも「ブログ終了しちゃったんですか~?」という励ましをくださる方々の優しい声に支えられ、なんと年末に前線復帰することになりました。来年からは「ほぼ週間SV-JP BIZ.LEGAL」として頑張る所存です!みなさま、改めましてどうぞよろしくお願いします。

さて、復帰第一弾で何を書こうかな~と考えていたところ、素人が新ドメインを取得後、当該ドメインにIPアドレスを割り当てるのに3時間くらいかかったの件はやめまして涙、日米スタートアップ投資のお作法のあるある話についてお話をすることにしました。

といいますのも、国内外スタートアップへの投資花盛りの今年、たくさんの投資家の方々(特に、事業会社さんや国外のdeal flowへの投資を始めたVCさん)から案件を通じてかなりの回数ご質問をいただいたのが、

「初めて国内ベンチャーに投資をします。どんな書類を締結するの?」
「国内ベンチャーへの投資は経験があります。しかしアメリカでメジャーラウンドへの参加は初めて。どんな書類を締結するの?」
「種類株の発行手続って、日米で同じなの?」

といったご質問でした。そこで、これから何回かに分けて、このあたりの「慣れちゃえば当たり前なんだが、どこか纏めて書いてあるところを探すのも中々難儀である」といったことを、徒然なるままに記録していきたいと思います。

栄えある第1回は、日米の種類株/Preferrd Stockの引受に関する基本的な前提問題の比較からいきましょう~

東海岸の田舎時代を支えてくれた、TJのヒジキピラフの図

こんな設定でお話をしてみます。

BLI社 日本の上場企業。知名度は高く、社歴は長い。ただ、事業投資やベンチャー投資の経験は少ない。
JP社 日本のスタートアップ。BLI社の事業と直接は関わりないが、将来的にはBLI社の事業にもシナジーが生まれる可能性のある技術を有する、平均年齢26歳の若き集団。
SV社 シリコンバレーのスタートアップ。BLI社の事業とはこちらも直接は関わりないが、将来的にはBLI社の事業にシナジーが生まれる可能性のある事業を展開中。創業者の平均年齢60歳。

さて、BLI社の新規事業開発部に所属するXさんは、現在36歳。これまで投資の経験はありませんが、研究開発部門からも信頼の厚い真摯な営業部員として実績を残し、数年前から経営企画部に異動。しかる後に新規事業開発部に配属になりました。

Xさんは、新規事業開発部において、日本とシリコンバレーにそれぞれ所在する、JP社とSV社に対するBLI社の投資案件の担当になり、業界用語をマスターしながら日々めまぐるしく働いています。そんなXさんは、ふと疑問を持ちました。

「JP社とSV社、それぞれプレ10億円のラウンドに当社はそれぞれ1億円と$1M出資することになったんだけど、ただお金を送ればいいわけじゃないよな…?そもそもどんな手続で、それぞれの株は発行されるんだろう??」

この疑問に対する回答は、一言で言えば「だいたい似てるが細部は異なる」、となります。

株式の発行、すなわちエクイティを用いた資金調達は、日本では会社法が、米国では(過去このブログでも竹内リーダーが繰り返し書いていたとおり多くの場合)デラウェア会社法が、それぞれ規律するルールに則って行われます。

そして、原則として株主総会の決議に基づいて株式/Sharesが発行されることも、発行後にお役所に登記やファイリングが行われることも、日本とデラウェアで同じです(但し、日本の登記とデラウェアのFilingはかなり趣の異なる制度であり、ここが誤解を生ずる場合も多いため要注意です。日本では定款自体を登記するわけではない上、常に商事関係のお仕事をしている弁護士や司法書士さんを悩ませる法務局の壁が存在しますが笑、デラウェアではまず定款(Certificate of Incorporation、COI)自体を修正してファイリングする上、基本的にその内容の審査はないやに聞いています。詳しくは、発展編を乞うご期待。)。

そして、その発行される株式の対価として(普通は)お金を払い込むことも、同じ。というわけで、日米(もう米と言っちゃいますが)で、大まかなプロセスは似たようなモノなわけです。

では、どんなことが違うのでしょうか。まず、ふざけているわけではなく笑、作成する書類が違います。日米のメジャーラウンドにおけるスタートアップ投資では、日本では「3点セット」アメリカでは「5点セット」と呼ばれる(?)書類群を作成することになります。すなわち、

 

要素 日本 アメリカ
種類株式の設計場所 定款 COI
株式を購入する契約 投資契約 Stock Purchase Agreement (“SPA”)
会社の運営方法についての約束  

株主間契約

Investors’ Rights Agreement (“IRA”)
保有する株式の処分についての約束 RoFR /Co-Sale Agreement
議決権行使についての約束 Voting Agreement (“VA”)

 

という各書類群です。

つまり、JP社に対する投資では「種類株式の発行要項(または最初から定款変更案)」、「投資契約」及び「株主間契約」という3つの書類が基本的な書類として作成されることになり、SV社に対する投資では「amended and restated COI」、「SPA」、「IRA」、「RoFR / Co-Sale」及び「VA」の5つの書類が基本的な書類として作成されることになるわけです。

※各書類の中身の概要は、これまでの過去記事を参照していただくと時々に言及があると思いますが、追って解説していくつもりです。

※なお、当然ですが、これら以外の書類を作らないわけではありません。日本では総数引受契約(登記申請用の形式的な契約書)ですとか関連する議事録の類(取締役決定書、取締役会議事録、株主総会議事録など)が作成されますし、アメリカでは(ある意味システマティックに)それぞれの契約上の権利を一部Waiveするための書面や、様々なSide Letterが作成されたりします。

ここで気をつけたいのが、日本だと投資契約と株主間契約にはBLI社の代表者ですとか然るべき方の押印をいただく必要がありますし、アメリカだとSPA、IRA、RoFR / Co-Sale、VAについて、サイナーの方にそれぞれサインをいただく必要があるということです。

そして、極めて実務的な話ですが、契約締結の際、日本だと投資家が少ない場合は特に、業界用語(?)で「スタンプラリー」と呼ばれる運動(注1)が行われる一方で、米国では「Signature Packet」と呼ばれる、投資家ごとに送られてきたPDFを印刷しサインしてPDF化して返送する、という方法(注2)が採られる場合が一般的です。

(注1)印刷して製本した各契約書を持って、発行会社のCFOやCEOがサインを貰うために投資家を回る活動のことを言う。経験者曰く、特にアポ取りが辛く面倒だが、うまく回りきって印鑑が全て押されたときの達成感は半端ではないらしい。

(注2)この方法の場合、多くの日本企業の方が「原本てどうなるんだ…」と思うと思います。特に契約書は原本管理が原則となっている運用の企業も多いため、細かい点ですが担当者としては死活問題だったりします。結論としては、原本が欲しい場合には予めそれを伝えておいた方が無難で、特に次回以降どこかでお話しますが、米国のベンチャーのミドル期以降にマイナー出資者として入る日本企業さんは、ちゃんと予め頼んでおかないと、「PDFでいいだろ」とつれない態度を取られて焦ることがあります。米国では(判例により)PDFのサインページの交換で契約が成立することに全く問題ない(日本法でも争われたら問題ないのではと思いますが、印鑑文化がある関係で民訴法的にはちょっとした論点が出てくることになりそうな悪寒です。)という考えが広く浸透していることもあってか、各投資家から集まったPDFのサインページが織り込まれた「完成版PDF」が送付されてきてオシマイ、ということもあります。

というようなことを経て、ようやく契約が締結され、これを徴憑として付した上で送金指示を出し、無事着金となりまして「Closing」が行われるわけですが、だいぶ長くなってきたので、今回はこの辺でオシマイ、ということにしたいと思います。BLI時代と同じく、次回「基礎編②」を書くかは分かりませんが、頑張って続けていきますのでよろしくお願いいたします!では~

【次回以降のテーマ候補(備忘)】

・各書類の中身シリーズ
・関連規制法への対応をお忘れなく
・「あなたは、どのようなラウンドに、どのような立場で参加しますか?」

この記事が気に入ったら
いいね!をお願いします

Twitter で

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です